【爆豪】聖夜の悪戯(前編)
なまえ side
12月24日。
今日はクリスマスイブだ。
授業が終わって寮部屋に帰り、今夜のA組全員でのクリスマスパーティの準備のため、皆で買い出しに出かけた。
寮に戻ってきてからは大忙しだった。
夕食班とケーキ班に別れて準備をした。
私、お茶子ちゃん、透ちゃんは砂糖くんのお部屋でケーキ班。砂糖くんの焼いてくれたケーキにデコレーションをしていく作業だ。
こういうイベントは準備から楽しい。
皆でワイワイしながら出来るし、既にクリスマスパーティが始まっているみたいだ。
3つのケーキのデコレーションを仕上げ、私達3人は女子寮へと戻る。「それじゃあまたあとで」と手を振って自室へと向かった。
ん?これは…?
自分の部屋の目の前に立てば、ドアノブの部分に紙袋がぶら下げられている。
それを手にとって部屋に入り、中身を確認する。
服…?いや、これはサンタの衣装だ。
目の前に広げた服はワンピースタイプのサンタ衣装。ポンチョと帽子もセットされていた。
…これを着て来いということ??
いやでも、買い出しのとき女の子たちは何も言ってなかったけど。
一応確認するべくお茶子ちゃんにメッセージをすれば、どうやらお茶子ちゃんの部屋のドアにもサンタ衣装が掛けられていたとのことだった。
まぁせっかくのクリスマスだし、着てみるか。
……
コンコン_
丁度着替え終わって、鏡でチェックしているとき部屋にノック音が響く。
「なまえちゃーん!ロビー降りよー!もう男子集まってるってー!」
三奈ちゃんの声だ。急ぎ気味に部屋を出れば、ドアの前には私以外の女子たちが集まっていた。皆で迎えに来てくれたようだった。それも皆サンタさんの格好をしている。
エレベーターでその格好のワケを聞けば、やはり皆部屋のドアにかかっていたからーと言うことだった。
一体誰が?
その疑問は、ロビーに着いてすぐに解決した。
エレベーターから降りれば上鳴くんが「お!女子はサンタかぁ、いいねぇ」と言う声が聞こえ、その隣にいた峰田くんは親指を立てて「オイラ、ナイス!」と喜んで(?)いる様子だった。女子部屋のドア一つ一つにこのサンタ衣装を掛けていった犯人は峰田くんだろう。
切島くんが小さめの箱を持って近づいて来て、「席くじで決めっから」と私達にくじを引くように促してきた。
私の引いた紙には"5"と記されていた。切島くんに覗かれ「みょうじは…5だから爆豪の隣だな!」と教えてくれたから、ロビーを見渡して隣の席となる人物を探した。
私は、いつもと変わらずムスッとした顔でソファに腰掛けている勝己くんの隣に腰を落とした。
『勝己くんの隣ゲットだー!』
「ケッ…!」
「あ、オメェらカップルで隣同士とかズルくね??」
『ふふん、上鳴くん。くじだもん。ズルくないよー。むしろ運命だと言って。』
「馬鹿な事言ってンじゃねェわアホくせぇ。」
『…けなすなら、馬鹿なのかアホなのかどっちかにしてよ。』
「なぁ、ホントみょうじってこんな口悪い奴の何処がいいの?」
『それは内緒ー』
「爆豪は?みょうじのどこが好きなんだよ?」
「テメェなんかに言うかボケ!!」
考えてみたら好きなところ、なんて分かんないなぁ…。暴言吐かれても好きだし、勝己くんになら何されても許しちゃいそうだし……。
こんなこと言ったら冷やかされそうだから、絶対人には言えないや。
三人で話していると、全員席が決まったようで飯田くんの乾杯の音頭でみんなジュースの入ったグラスで乾杯をした。
「「「メリーークリスマーース!!!」」」
「1年間おつかれさまー!」と少し早めの言葉も交えながら料理を口に運ぶ。
「なまえちゃん、なまえちゃん。」
勝己くんとは反対側の隣に座っていた透ちゃんがコッソリと話しかけてきた。
『どうしたの?』と返事をすると耳のすぐ近くで声が聞こえ始める。おそらく耳打ちをしてくれてるのだろう。姿が見えなくて分かんないけど…。
「あのね、このパーティが終わったら女子だけで集まって女子会しようよって三奈ちゃんから言われたんだけど、なまえちゃんは爆豪くんと過ごすよね?」
『…ど、どうかな?約束はしてないよ?クリスマスなんて、勝己くんの中では特別なイベントじゃないだろうし…』
「何言ってるの!絶対そんなことないよ!もし、爆豪くんがクリスマスに興味なかったらなまえちゃんが積極的に誘っちゃおうよ!」
『さそっ!?』
「うん!サンタさんななまえちゃんが可愛く誘えば爆豪くんはイチコロさ!!」
透ちゃんはいつもとんでもないことを言ってくるなぁと思う。姿が見えないから彼女がどんな表情でそれを言ってるのか分からないけれど、周りから見れば私が一人で赤面してるように見られるのが余計に恥ずかしい。
「女の子達には私から言っておくから、気にせず行ってきてね!」
…今晩勝己くんと過ごせば、後日冷やかされることはたった今確定した。
−−−−
「そろそろプレゼント交換しよーよー!」
三奈ちゃんの発言から、各々持ち寄ったプレゼントの交換が始まった。ビンゴゲームをして抜けた人からプレゼントを選んでいくというもの。もちろんプレゼントは一箇所に集められていて、ラッピングされて何が入ってるか分からないし、誰からのものかもわからない状態。
早々にビンゴを抜けてプレゼントを選ぶ者も
なかなか上がれず残り物のプレゼントをとる者も
中身を選べるわけではないからこそ最後まで楽しめるシステムだ。
プレゼントはそれぞれの個性が出ていそうだ。
ビンゴを終え、皆でプレゼント開封タイムとなる。
「これは当たりだ」と喜ぶ声や、プレゼントを見て笑い出す声も聞こえた。
私の貰ったプレゼントの袋の中から出てきたのは激辛ソースだった。
『これって、勝己くんからのプレゼント?』
聞かずとも正解な気はしたが、横に座っていた彼に尋ねた。
短く「あぁ、」と返事をされると、好きな人からのプレゼントを引き当てたことが嬉しくて自然と顔が緩んでしまう。
『くじといい、プレゼントといい、こういうところで引き当てちゃう私、すごくないかな?』
「ケッ…言ってろ。」
『ところで勝己くんは何を貰ったの??』
勝己くんからの返事を待っていると、峰田くんがキョロキョロと辺りを見渡しながら歩いて、勝己くんを指差して立ち止まったのが見えた。
それもすごい形相で。
「ば、爆豪!それ、お前が持ってんの…!!」
「あ?」
「クッソーー!!!なんでオイラのが男に当たんだよ!しかも彼女持ちの男にぃ!!聖夜を熱くさせちまってどうすんだよー!!」
涙を流しながら怒ったようにそう言っている峰田くん。周りにいたクラスメイトも頭の上にハテナを浮かべている。もちろん私もその一人だし、プレゼントを手にしている勝己さえも「何言ってンだ?」とでも言いたそうな顔をしている。おそらくまだ開封していなくて中身を知らないのだ。
丁度近くにいた上鳴くんが峰田くんに「お前何入れたんだよ」と笑っていて、勝己くんにプレゼントを開けるように促した。
勝己くんの周りには近くにいたクラスメイトが数名集まってきてプレゼントを凝視している。
私もジッとそのプレゼントを見つめていたが、瀬呂くんから「峰田の発言的にみょうじはとりあえず見ねぇ方がいいかもな…?」と言われた。プレゼントを見れないのは残念だが、後で勝己くんに聞けばいいやと思い、瀬呂くんの助言(?)に従ってお手洗いへと立った。
……
トイレから戻り、ロビーの扉の所から勝己くんの方を見れば、峰田くんは三奈ちゃんに両手の拳で頭を挟まれグリグリとされているし、上鳴くんは呆れ顔をしながらもニヤついている。常闇くんは少しだけ恥ずかしそうに下を向いて、瀬呂くんは「お前ほどほどにしろよー」と完全に呆れていた。
私が近づくと、瀬呂くんに「悪かったなみょうじ、でも見ねぇで正解。詳しくは爆豪に聞けなー?」と笑ってその場を離れていった。
「あ!瀬呂ォ!!俺に押し付けてンじゃねぇ…!!」
『勝己くん?』
「…っ、なんでもねぇわ!!!話しかけんな!!」
わぁ…完全に目が吊り上がってる。
「峰田マジ最っ低。」という響香ちゃんの声と共に他の面々もその場から散っていった。
い、一体何が入ってたの…………。
(続く)