【爆豪】優しい人(前編)


ある昼休み、午後からある実技演習のため、更衣室に向かってるときだった。

「今日は何すんだろーなー!!雄英は何が起こるかわかんねぇから楽しすぎるよな!な!爆豪!」

クソ髪が話しかけてくる。

「...うるせぇ。何が来てもカンケー...」

ドンッ!!

「あ゛ぁ!?」

『キャッ!』

俺の肩に何かがぶつかって来て、ぶつかって来たやつを見ると、女だった。
見ねぇ顔だった。おそらく普通科だろう。
そいつは俺にぶつかってた反動で手に持ってた資料をぶちまけていた。

『っ、ご、ごめんなさい!...ぼーっとしてて!!』

「気ぃつけろや!モブ女が!!」

「バカ!爆豪!!失礼だろそんな言い方!!...アンタ大丈夫か??」

「あ゛??」

バカという言葉に反応して、クソ髪を睨んだが、女がぶちまけたプリントを拾ってやっていて、女も慌てて拾いながら返事をしていた為、俺の声は聴こえてねぇ。

『あっ、いいんですいいんです!!私が悪いので拾って貰わなくてっ!!』

女がしゃがみこんで切島を止めているが、その間に散らばっていたプリントは全て切島の手にあった。

「よし。...ほい!これで全部だと思うぜ!」

『あ、ありがとうございます...ごめんなさい』

「気ぃつけて歩けや。」

「あ、オイ!...悪りぃな、こいつ口が悪りぃだけなんだよ」

「んだとテメェ!!」

切島は俺の怒りなんて無視して、片手を顔の前に立てて女に謝るジェスチャーをしている。

『ふふっ』

「あ?」

「ん?」

声をした方を見ると、女が笑ってやがる。

しかも、さっきまで俯いてて分かりゃしなかったが、...顔は悪くねぇ。

女は右手で栗色のセミロングの髪の毛を耳にかけ、近づいてくる。

『ごめんなさい。面白くてつい...拾ってくれてありがとうございます。』

女は俺たちにペコリと頭を下げて去っていった。


「なんだあのネクラ女」

−−−−

次の日、切島と食堂に来てると昨日のネクラ女とバッタリ会った。お互いにバッチリ目があった。

『あれ?昨日の?』

「...」

「お!昨日の〜!!」

「なになに?なまえの知り合い?」


ネクラ女の横にいた友達らしき人物が興味ありげに入ってくる。
どうやらネクラ女は"なまえ"というらしい。

『あー、知り合いというか...昨日ボーッと歩いててぶつかっちゃっただけなの』

へへっと笑いながら話すネクラ女。

ちなみにネクラ女と呼んでるが、昨日の印象が俯いてばっかだったからそうあだ名をつけただけで、正直今のコイツは根暗なんて言葉とは程遠い印象だ。

「へぇ〜!私、なまえの友達の旋律 耳。」

『あ、なまえっていうのは私。みょうじ なまえです。』

「旋律にみょうじな!俺は切島!んで、この人相悪いのが爆豪!よろしくな!!」

「誰が人相悪いだゴラァ!!」

ネクラ女とモブ1(旋律)はぽかんとした顔で見てやがった。

そして何故か昼飯を一緒に食べることになってるわけだ。

『へぇ〜2人はヒーロー科かぁ。すごいね!』

「ハハッ、俺はそーでもねぇよ!爆豪はうちのクラスの中でもトップクラスだけどな!!」

「いやいや、私ら普通科からしたら、ヒーロー科には入れてるだけでもすごいもん!ね?」

『ほんとほんと!(-ピリリリッ-)...あ、ごめん、電話だ...ちょっと出てくるね...』

スマホの画面を見て一瞬ネクラ女の表情が曇ったように見えた。

小走りで食堂を出て行くネクラ女。
俺も席を立つ。

「爆豪?」

「トイレだ。」

食堂を出たところでネクラ女が電話で話しているのが見えた。対して興味もなかったが、後ろを通らなきゃならねぇから自然と話し声が耳に入ってくる。

『うん...ごめんなさい。...わかった、今日行くから。』

それだけ聞こえて、俺は便所に向かう。
友達、とかじゃねぇな。

食堂に戻ると、ネクラ女は、さっきまでの暗い雰囲気は一切なく普通に笑って『おかえり爆豪くん』と声をかけてきた。

この女マジでわかんねぇ。

悲しそうに喋ったり、一瞬顔を曇らせたり、かと思いきや普通に笑ってたりコロコロと表情を変えるネクラ女のことが、家に帰ってからも頭から離れねぇでいた。




それから昼休みは四人でメシを食うことも多くなった。

学校で姿が見えれば自然と目で追っちまう。

ある放課後、帰ろうと荷物をまとめてると、アホ面が呼んでくる。

「爆豪ー、お前にお客さんー」

「あ?」

アホ面の方を見ると、ドアの前からこちらに手を振ってるネクラ女がいた。

「...なんかようか」

『用があるから来たの!ふふっ。家庭科で作ったからあげようと思って!』

綺麗にラッピングされたクッキーだった。

「...彼氏にやらねーのかよ。」


『...』

目を見開いてびっくりしている。
コイツから聞いた記憶ねぇもんな。

コイツがよく抜けて電話してるのが、男なのはなんとなくわかっちゃいたし、それが彼氏という存在なのも確信はなかったがそうじゃねぇかと思う。

『...あの人はこんなものいらないだろうから。』

さっきまでの笑顔は消えて悲しそうな顔をしやがる。

その男との電話でいつも聞こえてくるのは、コイツが謝ってる声ばかりだ。
うまくいってねぇのに、なんで付き合いを続けてんのかさっぱりわかんねぇ。

「...返せって言っても返さねぇからな」

ネクラ女の手の中にある袋を勢いよく取ってそう言うと、ネクラ女はまたいつもの笑顔に戻って『どーぞ!』とだけ言って去って行った。


家に帰ってクッキーを鞄から取り出して見つめる。

なんなんだよ、クソ!!!
1つ口に放り込むとめちゃくちゃ甘かった。






それから何日かネクラ女に会わない日が続く。

昼休みや、授業の移動のたびに無意識にネクラ女を探しちまっていた。

「チッ」

食堂に何日も現れず、ついには普通科まで足を運んだ。

「ネクラ女...いや、みょうじなまえ、いたら出せ。」

近くにいた男子生徒に声をかけ、怪訝そうな顔をしていたが、すぐ後ろから聞き慣れた声が聞こえそちらに目をやる。

「あ!爆豪くん!珍しいね!普通科に来るなんて!」

「...あぁ、あの女に用がある。」

「?、なまえのこと?」

「他に誰いんだよ。」

「ごめんね、なまえ、ここ最近ずっと休んでるの。」

困ったように笑うモブ1。舌打ちをして教室に帰ろうとすると、「爆豪くん!」と呼び止められる。

気まずそうな顔をして小さい声で俺に話す。

「あの、今少しいいかな?なまえのことで...」

屋上に連れてこられ、真面目な顔で話をされる。

「言おうか迷ったんだけど、てか、なまえには誰にも言わないでって言われてるんだけど...」

「はよ話せ。」

「...うん、なまえね、年上の彼氏がいるんだけど、その彼氏から暴力振るわれてるの。よく掛かってきてる電話も全部彼氏からだと思う。」

「...は?」

「で、たぶんだけど、なまえ、その彼氏に会いに行って何かあったんだと思うの。」

「それを、俺に話して良かったんかよ。」

「...私の個性、地獄耳なの。だから、心音まで聞こえるの。爆豪くんがなまえのこと心配してるのもわかるんだよ。今の話を聞いて心音はかなり早くなってる。助けたいって気持ちが大きいでしょ?」

「...」

「あと、この話はなまえから無理やり聞いたの。だから本当は誰にも知られたくないんだと思う。でもあの子は心の中で助けてって叫んでる。...私も正直どうしてあげていいのかわからないの。」

正直、なんでイラついてんのかわかんねぇくらいにイラついてる。
なんでそんなやつと付き合ってんのかとか
なんでヘラヘラしてんのかとか
自分がなにをしてやれんのかもわかんねぇでいた。


「...おい、あいつん家教えろ。」

そういうと女は少し安心した顔で頷いた。

放課後になって、ネクラ女の家に案内される。
彼女の家は、オートロックのマンションだった。
インターホンを鳴らして、ネクラ女の声が聞こえる。

『はい。』

「あ、なまえ?私、耳。プリントとか渡したいから開けて?」

『あ、ごめん、まだちょっと体調悪くて...移っちゃいけないから、ポストに入れといてっ!』

「あ、その、顔も見たいし、ちょっとでいいから!!」

『...耳、ほんとごめん、今はちょっと...』

イラついてきて、インターホンのモニターの前に立つ。

「おい、いいから開けろっつってんだ!でなきゃ、このドアぶち壊してでも行くからなぁ!」

ばちばちと火花を散らす。

『ば!爆豪くん!?待って待って!!わかったから...そんな物騒なこと言わずに早く入って!!』

インターホンの音声が切れ、ロビーのオートロックが解除される。

「あ、じゃあ私はこれで!」

「は?」

「なまえのこと、お願いね!!」

そう言って帰っていった。
仕方なく、一人で部屋に向かう。

部屋の前のインターホンを鳴らすと、ガチャリと音がして、マスクをしたネクラ女が出てきた。

『...わざわざプリントありがとう、ってあれ?耳は?』

「アイツなら帰った。ほら、預かってたプリントだ。」


『...ありがとう』

ヘラ〜と笑って受け取る。そのときに見えてしまった。コイツの手首にある痣。色が白いコイツの肌にあるそれはかなり目立つ。

その手首を勢いよく掴むと、少し顔を歪ませる。

「どうした、コレ」

『あっ...コレは、...』

言い訳に困って下を向くネクラ女。

「チッ」

半分しか開いてなかったドアを開けて、ネクラ女を押して中に入る。

『ば、ばく、ごーくん?』

「あがらせろ。」

『!?、まっ、まって!!』

制止の声も聞かず、ズカズカと上がり込んで、部屋の机に置かれてるものを見る。

薬?いや、これピルかよ。
なんでコイツこんなの...

ヒョイっと俺の手からそれを奪って、ため息を吐く。

「これなんだよ」

『これは、風邪薬!もう、移っても知らないよ?』

風邪薬なら、隠す必要ねェだろ...
笑って誤魔化しちゃいるが、普通笑ってらんねぇよな。

なんで笑うんだよ。
ツライならそういえばいい。
でなきゃ、わかんねぇ。

『コーヒー、飲めるかな?』

「...」

『そこに座ってて。』

ソファに腰掛けてると、マグカップを2つ持ってネクラ女が俺の隣に座る。

『どーぞ』

「...あぁ。」

マグカップに口をつける。
ブラックコーヒーの香りと苦味が口に広がる。

「...テメェはのまねぇのかよ。」

『...誰にも言わないでね?』

そう言ってマスクを外す。

「!?」

そいつの顔は左の頬を真っ赤に腫らしていた。
女の顔殴るなんざ、正気かよ。

『付き合ってる人にね、グーで殴られたの。ほんと、最悪だよ。』

ハハハっと笑いながら話してる。

俺は立ち上がって冷凍庫から氷を持ってきて、頬に当てる。
ネクラ女は突然の行動にびっくりしてやがる。

「なに笑ってんだよ!バカかテメェは!!」

俺をただ見つめてポカンとしている。

「つれぇなら笑ってんな!!別れろやそんなやつ!バカすぎるだろお前!!」

『......かれ...ぃょ...』

「あ?」

俺の腕を払いのけられる。


『わ、別れ、たいよ!!このままじゃダメだと思ったから!!勇気出して、別れ話したら!!こうなったの!!』

ソファの上で膝を抱えて座りそう言う。
下向いてっけど、たぶん泣いてんだろーな。

『どうすればいいのよ…』

縮こまったままのコイツを無意識に抱きしめていた。

『助けてよ。ばくごーくん。わたし、もうこんなの嫌だよ。』

「...めんどくセーけど、ひきうけてやらぁ。」

そのまま俺の腕の中でいつの間にか寝息を立てて寝ているコイツ。

油断、しすぎだろ。
ソファに横にさせてやると、着ていたパーカーが少し捲れてのぞいている肌を見て怒りがこみ上げてくる。

「なんっだよ」

さらにまくると、腹に所々痣ができていて、キスマークも至る所に付いている。
「お前、本物のバカじゃねぇか」

やり場のない怒りを発散させるため、全速力で家を出た。

なまえ side

「...ん...』

あれ、いつのまにか寝ちゃってたんだ。
爆豪くんが来てくれて、話しちゃったんだったな。

『はぁ...』

他人を巻き込むなんてどうかしてる。
よりによって爆豪くん、面倒くさいことには関わりたくなさそうな人を。

ガチャっ---

『!?』

ドアの開く音がしてそちらを見ると、爆豪くんが入ってくる。

『な 、なんで?』

「カードキー借りたわ、飯食っとらんだろ、作ってやっから寝とけ。」

片手にはスーパーの袋をぶら下げている。

『え!?や、いいよ!!身体は元気だからできるよ!!』

キッチンに立つ彼の横に行くと、腫れてない頬に手を添えられる。

『//////!!!』

ち、近いっ、

「顔色わりーし、クマもすげぇ。大人しく寝てろ」

いつも眉間にしわ寄せて喧嘩腰なのに、真顔で言われるもんだから逆に怖い。
大人しくまたソファに寝転がった。

程なくして爆豪くんがおかゆと野菜たっぷりのスープを作ってきてくれた。

「食え。」

『食べさせてくれないの?』

少しイタズラしようと思いそんなことを言うと明らかに怒りを顔に出す。

「いらねぇなら片付けるぞ」

『うそうそ!!ありがとう、いただきます!』

ホカホカのおかゆを口に運ぶ。
そういえば、久しぶりに胃の中に食べ物が入る気がする。
おいしいなぁ。

『うん。美味しい。』

頬杖をついて爆豪くんは私が食べるのを一瞬見て、窓の外に視線を戻した。

「それ片付けたら帰る。明日も学校行けねーなら放課後来てやるから、なんか連絡しろ。」

そう言ってラインのコードを差し出してくる。

慌ててスマホを出してそれを読み取る。

『爆豪くんてさ、見た目怖いのに意外に優しいよね。』

「あ゛???意外にってなんだ!!はっ倒すぞ!!」

『爆豪くんの連絡先ゲット〜♪』

「無視すんじゃねぇ!!」

(ピリリリッ--)

私のスマホが鳴り、掛かってきた相手の名前を見て、顔が青ざめていくのが分かる。
彼氏だ。

震える手で通話ボタンを押そうとすると、爆豪くんにスマホを奪われて、耳に当てている。

『なっ!!』

なんで出るの!って言おうとしたのに、爆豪くんの手で口を塞がれる。

耳に当てたまま、爆豪くんが黙っている。
だんだんと爆豪くんの眉間にシワが寄ってきてる。

「グダグダグダグダとうっせぇ。バカは人の話を聞きもしねぇで言いたいことばっかり言いやがる。」

「俺とコイツの、なまえの仲がどうなんて、なんでテメェに言わなきゃいけねぇんだよ。いいか、痛い目見たくなきゃなまえには一切関わんな。」

それだけ言って電話を切る爆豪くん。
私は、唖然として開いた口が塞がらないでいた。

「ほらよ、また掛かってくるかもしれねぇけど、出んな。」

スマホを返されると、案の定すぐに彼からの着信。
電源を落として鳴らないようにする。

なにが、起こった???
爆豪くん、今私の名前...
いや、そんなことよりも、あの人にあんなこと言って何されるかわかったもんじゃない!!

「食い終わったんなら、片付けるぞ」

食器を片付ける爆豪くん。

『や、やめて。』

「は?」

『片付けないでいいから...しばらく一緒にいて!!』

「...」

『...怖いの、』

「...鍵渡しとるんか」

首を横に振る。

「...お前が寝るまでいてやっから、そんなにビビんじゃねぇよ。」

『ほんと!?』

めんどくさそうに頭を掻いて食器を片付け始める爆豪くん。
あ、悪人ヅラなのに、良い人だ...!


『あ、爆豪くんもお風呂入ってく?』

「...テメェはバカかよ。着替えなんざねぇわ。俺は帰ってから入る。テメェだけ入れや」

『そ、そーだよね...じゃあ悪いけど...』


爆豪くんはテレビから目を離さないでいる。


湯船に浸かると体にできた痣やキスマークをしっかりみてしまう。それが嫌で最近はシャワーで済ます。

「…はぁ。』

熱いシャワーを頭からかぶりながら、自然とため息が溢れる。

いつまでこんなこと続けるんだろう。


爆豪side

『ふーー、さっぱりしたー!』

ドライヤーの音が消えたと思ったら、やたらと上機嫌で部屋に戻ってくる。
見られたくねぇのか、やっぱりマスクをしている。

「済んだならマスクとってさっさと寝ろ」

『そーだね!爆豪くんが帰れなくなっちゃう!』

俺が背もたれにしていたベッドにすぐさま横になり、どちらも喋らずテレビの音だけが流れている。

布団の擦れる音が聞こえたと思ったら、なまえが喋り始めた。

『...添い寝してくれないの?』

「...爆破されてぇのか?」

振り返ることもせずそう返すと笑い声が聞こえる。

『ハハハッ、おっかないなぁ〜。弱ってる子には優しくするもんだよ〜??』

「何考えとんだ。俺は男でお前は女。俺がやらかすかもしれねぇって思わねぇのかよ。」

『爆豪くんは、何もしないよ。好きでもない人としそうになっ...えっ..わっっ!...』

俺のことを男として意識してねぇコイツに腹が立って、言葉を遮って組み敷く。
お互いの顔があと少しで触れるという距離。
ネクラ女は目を思いっきり瞑ってる。

まつ毛なげぇ。

あと、風呂上がりの匂い。

ネクラ女は恐る恐るゆっくりと目を開けると、今度は顔を真っ赤に染め上げていく。

『ち、近いよっ/////』

飯くわせろだの、添い寝だのいう割に、こっちが本気になると距離を取ろうとする。
飯作るときも顔触っただけで真っ赤んなってたしな。

冗談でンなこと言ってきてんのに腹が立ち、仕返しをしてやる。

「ビビってんじゃねぇか。」

そう言って横に寝転がる。

『ほんとに来てくれると思ってなかったから...びっくりしただけだよ。...ほら、布団の中入ってくれないと私動きづらい。』

...マジかよ。

風呂入ってねぇと言ったが、『爆豪くんいい匂いだから大丈夫』とかわけわからねぇことを言い出す。

『私寝れないよ?』

そう言われて、舌打ちをして渋々布団に入る俺を見て楽しそうにしてやがる。

ネクラ女に背を向けて横になると、すぐ後ろにくっついてきて、体温を感じる。

「なっ、にしとんだ!」

『添い寝。あったかくて気持ちいいから。』

やべぇ。今ぜってぇ向き変えれねぇ。
...これだけで勃つとかありえねぇ。

少しすると、規則正しい寝息が聞こえてくる。
ほんとにすぐ寝やがった。

体を反転してネクラ女と向き合う体制になる。

「なまえ...」

『...んぅ...』

名前を呼んでみると少し返事をする。

髪の毛を何度か撫で、身体を抱きしめる。
細ぇ。
けど柔らけぇ。

額にキスをして抱きしめる腕に力を込める。


...

いつのまにか寝ちまってたようだ。
時計を見て、明け方なのがわかる。
一回家戻ってシャワーだけ浴びねぇと。

起き上がろうとするときに気づいた。
ネクラ女が俺の服を掴んで寝ている。

離そうとすると少し起きる。
そして寝ぼけた顔でこちらを見て

『ばくごーくん、キス、して?』

は?

コイツ自分が言ってることわかってんのか?

『夢くらい幸せでもいいでしょ?』

そういうことか。まだ寝ぼけてんのか。

近寄ってくるネクラ女の額にまたキスをするが『そこじゃない』と言って、自分から唇にキスをしてくる。

触れるだけのキスを何回も。

あーやべぇ。
昨日から抑えてたのもあってすぐに自分のモノが勃ち上がる。

たぶん、俺コイツに惚れてんな。
じゃなきゃこんだけで勃つとかありえねぇ。

このままじゃ理性飛んでもおかしくねぇ。
早いとこ起こさねぇと。

肩を掴み動きを止める。

『...私とキス、イヤ?』

嫌なわけねぇ。
今の状態のコイツを抱いても、弱さに漬け込むだけだ。

「寝ろ。」

それだけ言ってキツく抱きしめる。

『...うん。おやすみ。』

俺も目を閉じたが眠れるわけもねぇ。
少しして、腕の中のコイツが眠ると、そっと離してベッドから出る。

シャワー浴びねぇとだな。

マンションから出て、ひとまず家に戻る。

シャワーを浴び、準備をして学校に向かう。

幸いババアの仕事が早く、出くわさずに出れたが、帰ったら何言われるかわかんねぇな。
めんどくせぇ。

簡単に事情をラインで送りつける。

そのとき、ちょうどネクラ女から連絡が来た。

『おはよう(^^)昨日はありがとう。うちにネクタイ忘れてるよ〜!』

「今から行く。」

それだけ打つとすぐに既読がついて返事が来た。

『マンションの外で待ってるね』

急いでマンションに向かう。




なまえ side

朝起きて、爆豪くんがいなくなってた。
何だかんだ、起きて「おはよう」なんて言い合えたら、なんて思ってたけど。
そうはいかないか。

学校、今日は行かないとなぁ。

準備をしていると、ネクタイが落ちてる。
これ、爆豪くんの?

LINEを送るとすぐ返ってくる。

こんなやりとりさえも幸せで、何度もトーク画面を見てしまう。

制服に着替えてマンションの外で待つことに。

学校行くのかってびっくりされるかな?
手に持ってる爆豪くんのネクタイを見ては、ゆるくなる口元を反対の手で抑える。


『えっ!?わっ!!』


突然腕を掴まれて、持ってたネクタイを落としてしまう。そのままマンション敷地内の人目のつかないところまで引っ張られる。

この後ろ姿、制服、彼だ。
怖い...
声も力も出ない。

背中を壁に強く打つ。

『いっっ!!』

顎を掴まれて声が出せなくなる。

「なまえ、?昨日の電話の男だれ??」

怖い時って、ほんとに声出なくなるんだ。

「なんで黙ってる?浮気してた??」

『...』

「別れようって言い出したのもそいつが原因?」

ちがうっていいたいのに声が出ない。

「ねぇ、なんで?俺はなまえのことしか見てないのに。」

だれか助けて

「俺がどれだけ愛してるかわからないんだね。やっぱりなまえが悪いよ。こうしなきゃわからないなまえが。」

返事をしない私にイラついて、彼が手を振り上げた。
殴られると思ってギュッと目を瞑った。
それなのに、一向に痛みは来ないし、掴まれた顎は離される。

「は?」

「...女に暴力なんざ、テメェはゴミ以下だな。」

『!、ばくごーくん!!』

息を切らした爆豪くんがいる。
手には私が落としたネクタイを持ってる。

「はぁ?あ、お前もしかして昨日の電話の?...はぁ、あのね、これは俺らの問題なの。部外者は口出さないでくれるかな?」

「他人の恋愛ごっこなんざさらっさら興味ねぇよ。ただ、その女にそんな顔させてるテメェのことは殺してぇほどムカついてんだよ。」

爆豪くん、今にも飛びかかっていきそうなオーラを出してて、聞いてる私も鳥肌が立ってる。

「え?お前もしかしてなまえに惚れてんの?ははっ、」

「だったらなんだよ」

え?、なんと??

「は?...ははっ、だってさ、なまえ?返事してやったら?君みたいな怖い人とは付き合えませんって」

笑いながら言う彼。

ぎゅっと拳を握りしめて声を出す。

『......もん。』

「ん?はっきり言ってやんな?」

『爆豪くんは、怖くないもん。知ったような口を聞かないでよ。』

「え?なまえ?」

「...」

『私、爆豪くんのこと好き。』

「いや、なまえ?何言って...」

「そーいうこった。部外者はどっちだろうなぁ?あぁ?」

「なまえ?待って?俺、学年でも成績トップだよ?こんな喧嘩っ早いだけのバカなやつ、やめたほうがいい。考え直せ!」

「あ゛???ぶっ飛ばされたくなかったら、今すぐ消えやがれ。なまえにも二度と近づくんじゃねぇ。」

「うるせぇよ、お前」

『...私は翔がエリートだからとかで付き合ってたんじゃないよ。翔の優しさが好きだった。でも私が高校に入ってから翔が変わった気がしたの。毎日怖かったの。』

「...好きだなんていつぶりに言ってくれたんだろうな。まぁ、言えなくなったのは俺のせいだよな...。たった一言ですげぇ安心するのに。」

『...』

「...なまえ、悪かった。俺、なまえが高校生になって可愛くなってくの見て焦ってた。学校も違うしさ。誰かに獲られちまうんじゃないかって。正直俺もさ、なまえといる時の自分は自分じゃなくなってきてて嫌だったんだ。焦るばっかで、気づいたら傷つけて。ほんとに悪かった。」

『うん、...きゃっ』

「!?おい!」

先輩にいきなり抱きしめられて、軽い悲鳴が出てしまう。爆豪くんも先輩の行動に驚いて、手が出そうになってる。

「あーあ、本当ショック!なまえさ、いい女なんだから、自信もてよ?」

それだけ言って私の頭をクシャッと撫でる。地面に投げられてたカバンを拾い「じゃあな」と去っていった。




先輩が去った後、爆豪くんと二人きりになる。
爆豪くんがわたしの鞄を拾ってくれて渡してくる。

『えーと、ありがとう??』

「...」

反応ない。お、怒ってるのかな??

『ば、爆豪くん?』

「おら、さっさと行くぞ。」

そう言って歩き始める爆豪くん。
小走りで追いかけて爆豪くんの横を歩く。

『う、うん!』

爆豪くんの顔見れない...。

さっき言ってくれた言葉はアレかな。
先輩がいたから私のために言ってくれたのかな?
だったらめちゃくちゃ恥ずかしい。
私思いっきり告白しちゃったし...

「おい、」

『はいぃっ!!!』

「なんなんだ、急に!!」

『あ、いや、考え事してて、ごめん。』

「さっき言ったこと、その場しのぎなんかじゃねェからな。」

『...?』

「てめぇはどこまで鈍いんだよ...」

『あ、えと...?』

キョトンとしていると、突然爆豪くんが歩みを止める。
私も同じように停まると、こちらを向いたと思ったらいきなり顎を掴まれキスをされる。


『へ!?』

「...これでわかんねぇなら殺す」

それだけ言って、驚く私を無視して歩き出す爆豪くん。

は、反則だぁ〜〜/////


fin..(続きます)



- ナノ -