【爆豪】壊したい関係(中編)


なまえ side

「はい、じゃあ次の問題を...みょうじ。答えてみろ。」

今は数学の授業中だ。
ボーッとしててノートの数式も途中で止まっている。

『、わかりません...。』
「期末近いぞー、じゃあ心操。」

わたしの代わりに当てられた彼はすんなりと答えるのだ。
…勝己くんとあんなことがあってから、わたしの脳内のほとんどを彼が占めている。
先生の言う通り、試験が近い。
最近の授業が全くもって耳に入ってきてないから流石にまずい。帰ったら今日は集中して勉強しなきゃ。

−−−−

「最近調子悪そうだね?」

授業が全部終わって帰り支度をしているところに声をかけられる。

『心操くん…ううん、そんなことないよ。』
「それならいいけどさ、体育祭以降なんかおかしい気がして。」
『...』

ずばり言い当てられて言葉が出なかった。

「友達に個性は使わないから安心しなよ。」

自分の個性を気にしたのか、彼にそんなことを言わせてしまう。もともと仲は良かったが体育祭以降、話しかけてくれることが増えたし、角がなくなった気がする。

『心操くんがわたしに個性を使うなんて思ってもないよ。ただ、言い当てられちゃったから言葉が出なかっただけ。』
「...俺で良かったら聞くけど」

そう言ってくれる彼は優しいなと思う。
話せば少しはスッキリするかな?
...ううん。
話してスッキリしていいことじゃない。

『ううん、今はまだ話せないかな。ごめんね。心配してくれてありがとう。また明日ね。』

椅子から立ち上がり、彼に向けて手をヒラヒラとさせるとその手をパシッと掴まれる。

『心操くん?』

わたしの顔を真剣な眼差しで見つめてくる。

「みょうじにとって俺はただの友達?」

その質問に対する答えはすぐに出た。

『ううん。大事な友達。』
「...ハハッ、」

わたしが答えると突然笑い始めた心操くん。
どうしたんだろう?と思って首をかしげると心操くんが続ける。

「ハハ、いや、それでいい。そんなに迷わず応えられると思わなかっただけだよ。...悩ませている"何か"が、勉強も手につかないほどみょうじの脳内を埋め尽くしてるのが少し憎らしいけど」

どういう意味だろう?

『心操くん?どういう...!?』

"憎らしい"
その言葉の意味を尋ねようとすると、心操くんに掴まれていないもう片方の腕を誰かに掴まれ強く引かれる。

そして離れた心操くんの手。

驚いて一瞬体が固まってしまう。
目の前の心操くんも目を見開いている。
振り返ってわたしの腕を強く掴む人物を確認する。

『勝己、くん?』

普通科のクラスに彼がいるなんてあり得ない。

そして、今最も会いたくない人だ。
見間違いだと思いたかった。けど、見間違えるはずがない。
ここ最近のわたしの脳内にずっと居座って離れない人だから。

「おい、モブ野郎。」

勝己くんが心操くんを見て低い声で話す。

「相変わらずだね、その嫌な言い方。」
「...チッ、コイツ借りんぞ」

わたしのことなんて一瞬たりとも見ようとしない赤い瞳。

「"借りる"?奪うの間違いでしょ」

フッと笑ってそんな事を言う心操くんと、再び舌打ちを漏らす勝己くん。
2人ともなんの話をしてるの...。

『!?』

勝己くんにグイッと強く腕を引かれて教室の外へ連れ出されてしまった。
一体、なにがどうなってるの...。

−−−−

空き教室に連れ込まれる。

『勝己く、!!』

声をかけようとすれば、勝己くんが振り返ってわたしを抱き締める。
彼はわたしのことが嫌いだと言った筈だ。
わたしも"勝己くんのこと嫌いになった"と言った。
それなのに、この状況はなに??

勝己くんのこと、よくわからないよ...。

「なんっで…!」
『勝己くん?』
「テメェの隣にはなんでいつも俺じゃねぇ奴がいんだよ!」
『な、に言って…』
「クソデクや、さっきみてぇなモブ野郎の隣ではあんな風に笑いやがって……なんっで、俺はテメェん中の1番じゃねぇんだよ!」
『……』
「"普通の幼馴染"とかふざけたこと抜かしてたよなァ?テメェがその"幼馴染"っつー肩書きに縛られて俺を男として見れねェんなら…そんな関係、ぶっ壊してやらァ。…この前みてぇに無理やり犯してでもだ!!」

そんな風に思ってるなんて予想もしてなくて言葉が出てこないでいた。苦しそうに話す彼は今どんな顔をしているんだろう。強く抱きしめられている所為で表情を見ることができない。

「…テメェが前に進もうとしねェなら、俺が引っ張ってやるわ。」
『わかんないよ。勝己くんのこと。』
「あ゛?」
『わたしのこと嫌ってる態度とったり、この前みたいなことしたり、それなのに今日は、突然抱き締めてきたり。…勝己くんの言葉をどう受け取ったらいいのか分かんなくなる。』

思っていた事をハッキリと伝えた。
勝己くんがわたしを抱き締める力が強くなった気がした。

「…ただの幼馴染っつう関係が死ぬほど嫌いだった。この関係の壊し方が分かんねェでずっとムカついてた。」
『うん…あんなことされて、嫌いって言われて…訳わかんなくて…ずっと悲しかった。もう忘れてしまおう、考えないようにしようって何度も思ってるのに、わたしの頭の中から勝己くんが出て行ってくれないの。』
「…」
『この前言ったよね?弱いわたしは嫌いだって。自分が弱いことくらい分かってる。わたしだって弱い自分が嫌いなの。』
「あぁ…。」
『あんな酷いことされたのに、今こうやって抱き締められて、安心してる自分も、ドキドキしてしまう自分も、きらっ…!』

抱きしめられていた身体が勢いよく剥がされ、驚いて口の動きが止まった所を勝己くんの唇で塞がれてしまう。
目をパチパチとさせているとすぐに唇は離され、再び抱き締められる。

「さっきからウゼェ……。」
『…』
「そんなに自分が嫌いなら、俺がテメェを好きでいてやるわアホ!!!」
『は…?何ワケ分からないこと…』
「うるっせぇわ!!!あと目くらい閉じろやアホ!!!」

先ほどから罵倒しすぎでは…。
というか今、彼はわたしの事を「好き」と言った?
聞き返そうとすれば、勝己くんはわたしの腕を掴んで教室を出て行こうとする。

『ちょっと、どこに連れて行く気?』
「この前あんな風に犯しちまったからなァ?仕切り直しだわバァカ!!!」
『仕切りなお…し??』

意味を理解すれば、必然とこの間の行為を思い出してしまう。
…少し怖い。
それが素直な気持ちだ。

勝己くんは、ピタリと足を止めたわたしの腕を離して顔だけを向けて話をする。

「…この前は悪かったな。もうあんな無理矢理にはシねぇ。怖ェなら今すぐ逃げろ。」

わたしは少し震える両手で勝己くんの腕を掴んで告げた。

『…今日は、優しくしてね?』

………
勝己くんの家に向かって歩いている道中、数日後に迫っている期末試験の存在を思い出して、わたしは絶望した…。

fin..



- ナノ -