【轟】誕生日という日


(大人轟くんと彼女の主ちゃん)

轟 side

−−−−−−−−
from なまえ
ごめん、今日時間ずらしてもいいかな…( ; ; )
残業になりそう…。
−−−−−−−−

彼女から届いたメッセージをぼんやりと眺める。
今日は俺の誕生日だからと、仕事が終わったら食事に行く約束をしていた。
"大丈夫だ。そっちに迎えに行く。"とだけ打って送信する。

「……」

最後にゆっくり会って話をしたのはいつだっただろうか。
俺はヒーロー活動、なまえも働いていて、休みの日がなかなか合わない。
なまえとは付き合って2年が経つ。付き合いたての頃は毎日のように会っていた。たくさんの時間会えなくても、仕事の後に迎えに行って家まで送る短い時間も幸せだった。しかしここ2ヶ月ほど、なまえも俺も忙しくなり、少しの時間さえも合わないでいる。

−−−−−−−−
from なまえ
ありがとう。じゃあ終わる前に連絡するね。
ほんとごめんなさい( ; ; )
−−−−−−−−

泣きそうな顔で文字を打っているのが想像できてしまう。
"わかった。頑張れよ"
と返信をする。
余程忙しいのか、それ以降なまえからの返信はなかった。

−−−−

仕事が終わった後、一人きりで部屋に帰る。
ソファに腰掛けて、スマホを覗くも変わらず返信はない。
考えるのはなまえのことばかり。
久しぶりに会える楽しみで、心は踊っていた。
たとえ会える時間が短くなってしまっても、顔を見て声が聞ければそれだけで充分だ。

ピロンー
スマホの音が聞こえてすかさずメッセージを開く。

−−−−−−−−
from なまえ
もう少しかかりそう( ; ; )
ご飯先に食べてて。
−−−−−−−−

忙しそう、だな…。そう思いながらスマホを置いて適当にテレビをつける。再びなまえからの連絡を待つ。
が、あれきり一向にスマホが鳴ることはない。

テレビの音はただのBGMになっちまっている。
内容なんてちっとも頭に入ってない。

ちらりと時計を見ると23時を回っていた。
流石に遅すぎる。
何かあったんじゃないか?そう思うと居ても立っても居られず電話をかけるが出やしねぇ。メッセージも入れたが返事を待ちきれず、立ち上がってコートを羽織った。

ピーンポーンー

こんな時に誰だよ。
今すぐにでも出たいというのに邪魔が入ってしまう。

インターホンのモニターで外の人物を確認する。
外が暗く、その上立っている人物は帽子を深く被っていて顔が認識できない。ジャケットを羽織った人物だ。知り合いではない気がする…。その程度の確認だけして、モニター越しに通話することもなく玄関へと向かう。

ガチャー

「あ、遅くなってすみません。轟焦凍さん宛にお荷物でーす。」
「…いくら宅配と言っても、人の家を訪ねるには遅すぎると思いますが。」

少し苛ついて強めの口調で言ってしまう。

「申し訳ありません。でも…今日じゃないといけなくて。」
「どういう…!」

俺が聞こうとすれば、宅配の人は顔を上げる。その顔を見て固まってしまった。

「……なまえ。」
『えへへ。来ちゃった〜!』

目の前にいるのは、会いたくてたまらなかった愛する人。
その無邪気に笑う顔を見て、思わずなまえを腕の中に閉じ込めた。

『焦凍くん?』
「ありがとな。来てくれて。」
『ううん。お誕生日だもん。おめでとう、焦凍くん。』
「…あぁ、ありがとう。」

嬉しくてついその場でしばらく抱き締めてしまっていた。なまえの体が冷えていることに気づいて部屋に招き入れた。

2人でソファに腰掛けたときに渡された綺麗にラッピングされたプレゼント。
ケーキ屋が閉まっていたから、とコンビニで買ったプリンを申し訳なさそうに一緒に渡される。

プレゼントを開けると出てきたのは財布だった。
「ありがとうな」と礼を言ってなまえの額にキスをする。『えへへ』と顔を赤らめて笑う姿が可愛い。

プリンを机に出して誕生日の歌を歌ってくれるなまえ。歌い終わった後、『ケーキじゃないし、ろうそくも準備してなくてごめんね』と言いながらプリンを手に取る。

「なまえ?」
『なぁに?』

スイーツを持ったまま顔だけを俺の方に振り向かせる。スイーツを手から取り上げて机に戻すと『あっ、』と少し悲し気な声を漏らす。その横にピッタリとくっついて、なまえの身体を包み込む。

『…しょー、とくん?』
「体、だいぶ冷えてた。マフラーくらいつけてきてくれ。風邪ひくだろ。」
『だって…マフラーつけたらわたしが来たってバレちゃうもん。』
「…あのジャケット着てりゃまずわからねぇ。…あんなの持ってたんだな。」
『職場の先輩が貸してくれたの!』
「……」

楽しげに話すなまえとは逆に俺は、ハンガーにかけられた革製ジャケットに視線を移す。
ジャケットはメンズのものだ。先輩というのは男、か?
玄関で抱きしめた時に感じたいつもと違う香り。なまえのものじゃねぇことくらい聞く前からわかっちゃいた。俺の為に考えてくれたサプライズ。わかっちゃいても、他の男を感じさせる彼女の行動は俺を嫉妬の渦に巻き込んだ。
嬉しそうに話を続けるその口を俺の唇で塞ぐ。

『んぅっ……』

いつだって声が聞きたくて、会いたくて、抱き締めたいのに、心の内で思い焦がれているばかり。それなのに、このジャケットの男は毎日職場でなまえと会って、楽しげに話をするんだろう。

「…仲がいいんだな?その先輩と。」
『っ、…女の先輩だよ?』
「あのジャケットはメンズだろ…。」
『ほんとに女の先輩だもん。』

俺の顔を不安気な表情で見る。
…たぶん嘘はついてない。男性物を好んで着る女性だっているだろう。それとも、この状況こそが先輩とやらの企なのか…。
その考えがあってこのメンズのジャケットを貸したのなら、俺はまんまと翻弄されている。
抱き締めていた身体を離して、もう一度触れるだけの口付けを小さな唇に落とす。

「今日、泊まっていくか?」
『うん…。そのつもりで来たよ?』

その返事が何よりも嬉しくて、思わず口元は緩んじまう。
別に下心があって聞いたわけじゃない。ただ離したくなくて、ずっと一緒にいたかった。もう一度キスをしようとしたところをなまえの指先が俺の唇を止める。

「どうかしたのか?」

そう尋ねると、彼女は俺に優しく笑いかけてから時計をちらりと見る。時間は23時52分。『まだセーフだね。』と言って軽く座り直す。身体を俺の方に向けて優しい表情で見つめてくる。

『焦凍くん。』
「なんだ?」
『お誕生日、おめでとう。』
「フッ…さっきも聞いたぞ?」
『好きな人の、年に一回の大切な日をこうやって一緒に過ごせるって幸せだね。』
「…」
『生まれてきてくれてありがとう。』

その言葉を聞いて、胸の奥が暖かくなっていくのを感じる。…誕生日ってのは、こんなにも幸せなのか。再びなまえの背中に腕を回して俺の方にグッと引き寄せぎゅっと抱き締める。

「…なまえがいなきゃ、"誕生日"なんて何でもないただの1日だったよ。」
『…もう、わたしが焦凍くんを照れさせたかったのに。』
「…?」

俺の腕の中で顔を上げてそんなことを言う。少し頬を赤らめてプクッと頬を膨らませる。
俺がフッと笑うと、なまえも笑い始める。

「なまえ、好きだ。」
『うん。わたしも焦凍くんのことが大好きです。』

fin..

(2021.01.11.轟焦凍くんHappy Birthday!)



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