お茶菓子は武器と成る。 (4/5)

「相変わらず銃はSAAがお気に入りだな。お嬢なら難なく使いこなすだろうけど、ナイフにしないのは何故なんだい?」
「腕が鈍らないようにですよ、センセ。作戦的に銃が最適な時もあるし……それに、あのナイフ以外使いたくないもの。ま、アレじゃないと戦えない敵も居るけどね」
 西部劇のように銃を後ろ、前、とくるくる回して、ホルスターに収めた◆は、ふふ、と力なく笑った。
「お嬢様、今温めておりますよ」
 ソファへ腰掛けた◆に、老執事の声がかかる。
「ありがとう、ギルベルトさん」
 ◆の正面にスティーブンも腰掛け、事務所に漂う香りを、スン、と嗅いだ。
「そう云えば、さっきからいい匂いがするなと思ってたよ。今日はどこのスイーツだい?」
「私が作ってきたスコーンだよ、ミスタ。朝来た時にギルベルトさんに渡しておいたの」
 アーセナルから強制的に渡された弾薬の包みを眺めつつ、◆が答えた。
「おっ、懐かしいな! ◆特製チョコチャンクスコーンか。また食べられるとは嬉しいね」
「えへへ、ニーカも喜んでた」
 そうはにかんで膝に頬杖をつく。
「――レオがね……昔、妹さんが時々スコーンを作ってくれたんだって。それには敵わないと思うんだけど、なんとなく作ってあげたくなって」
「へえ……? お嬢は少年にやたら優しいけど、ちょっと妬けちゃうじゃないか」
 マグのコーヒーに視線を落としつつ、◆の表情をそっと覗けば、彼女はテーブルに置いてあったタブレットを手に取り、
「何云ってるの? ミスタ」
 と、ケラケラ笑った。
「ほら、レオナルドってここだと歳上ばかりじゃない? で、バイト先でも苦労してるでしょう。だからなんだか甘やかしたくなるって云うか。色々してあげたくなるの」
 タブレットをスイスイ、とスワイプしていく様子に、スティーブンは片眉を上げた。
「なるほど? ま、確かに君にはそういう弟的な存在が居なかったからなぁ」
 姉貴ぶりたいわけか、とコーヒーを啜る。
「あ、でもレオはお兄ちゃんなんだから、私が甘えるべき?」
「おいおい、お嬢が甘える相手は僕とクラウスで充分だろう? 君を甘やかすのも、僕とクラウスだけでいい」
 ――それはスティーブンの数少ない本音だった。
 ◆は最上級の信頼をクラウスに置いているが、何か困った事があった際に真っ先に頼るのはこの自分だ。その対象は己だけであるという自負もあるし、彼女がこれからどれだけの人間を信頼していくとしても、自分の“位置”だけは変わって欲しくなかった。
 そんな心情は冗談めかして云ったつもりだったが、何かに気付いたのか、◆はゆっくりとタブレットから顔を上げ、スティーブンの瞳を見据えた。
「……そうね、ミスタ・スティーブン。貴方は本当に優しいもの」

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