お茶菓子は武器と成る。 (2/5)

「オイオイ、この“武器庫”様を舐めるな! ギミックもなんも無ぇ純粋なナイフに一週間も要らん! ……ああ、だが前回の調整から一年か……そうだな、ホルスターの新調が必要ねぇなら三日だ!」
「さっすがライブラの頼れるエンジニア! ありがとうっ!」
 軽やかな拍手を送られ、得意げに腕を組んだパトリックだったが、そのままズイッと身を乗り出し、彼女に迫る。
「しかし、三日間丸腰では居させねぇぞ」
「勿論。じゃあ“SAA”を貸して貰える?」
「カーッやっぱりそうくるか! おい◆、云わせて貰うけどよ! それなりに銃も扱えるんなら、もっと高性能でギミック満載で! 最新型の激ヤバなヤツにしろッ! コレとかどうだ!!」
 そう云ってパトリックが取り出した銃は、どちらかというとK.Kが使用するような銃火器で、更に術式が施されているのか禍々しさが感じられた。
「パトリックさん、それって“空間ごと切り取る”とかいう……」
 思わず“視てしまった”レオが、部屋の奥からおそるおそる訊ねる。
「おー前に勧めたヤツか! よく覚えてるな、レオ。だが似てるがこれは対象が爆散するヤツだ、爽快だぞぉ!」
 満面の笑みでリロードしてみせるパトリックに、◆は渋い顔をした。
「そういうのはブリゲイドさん辺りが好きそうだけど、私はただの拳銃でいいから」
「“ただの”なんかじゃ異界生物にゃ効かねぇぞ」
 渋々、小振りの拳銃を出すも、しっかり高威力の特殊弾薬を添えている。
「……あれ、◆さんの武器ってナイフでしたよね? それなりに銃使えるって……?」
「オウ? なんだレオナルド、知らねぇのか。◆はな、武器だったらなんでもござれの奴だぞ。近接は勿論、ボウガンとかライフルとか……確か装甲車も乗れたよな?」
 は!? とレオは声を上げそうになったが、
「あはは……もう忘れちゃったかも」
 そう返した◆の笑みは、無理やり口角を上げたように見えて、それ以上訊ねる事は出来なかった。
「――じゃあ三日後に。そこの諸君は早めに戻るんだよー」
 ◆が手を振って調整場を後にすると、此処はコーヒーとスコーンの香りが漂う、まったりとしたアフタヌーンに戻った。
「や〜優しいですよねぇ、◆さん」
 二人の分のお菓子は事務所にあるからね! という彼女のウインクを反芻し、レオナルドは呟く。
「なんだレオ、アイツに惚れちゃあ駄目だぞ」
 ずず、と助手の淹れたコーヒーを啜りつつ、椅子に腰掛けたパトリックが意味ありげに笑うので、「だからそういうんじゃないんですって」と少年は首を振った。
「僕、そんなに惚れっぽく見えます? K.Kさんにも云われたんですよ、“クラウスさんのだから駄目”って」
「はっはっは! “クラウスの”なァ! まー間違いじゃねぇが、どっちかってーと、◆のがアイツしか見てない感じだけどな」
 大きな笑い声を上げたパトリックは、◆から預かった彼女のコンバットナイフを手に取り、その刀身を傾ける。
「それは恋慕か家族愛か? いや、どれも当てはまらねぇ。“依存”が一番しっくりくるんだが違う気もしちまう……そう、これはライブラ七不思議の一つなんだ」

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