お茶菓子は武器と成る。 (1/5)
ライブラの武器調達・調整を一手に引き受ける“武器庫(アーセナル)”こと、パトリック・スミスは、散らかった作業台でPCを弄りながら、冷めたコーヒーを啜った。
そろそろ茶でもしばくかと顔を上げると、事務所の奥では、助手のニーカ・カヴァレンコが、最近仕入れた超小型の手榴弾を分解しているところだった。
物騒なものが乱雑に並ぶ半地下だが、ふいに軽やかなノックの音が響く。
「ハロー、パトリック&ニーカ」
顔を出したのは、大小様々な紙袋を抱えた◆だった。
「おお、◆じゃねぇか。帰還祝いぶりだな!」
カウンターに立ったパトリックの前へ、よいしょ、と荷物を置き、◆は一息つく。
「行かなきゃってずっと思ってたんだけど、なかなかこっちの区画に来られなくて。お使いがてらやっと今日にね」
これはブンブンからの、これはクラウスさんからの、ギルベルトさん厳選のコーヒー豆も――と袋を差し出してゆき、
「あと――そこに居るのはザップとレオナルドでしょ?」
図体のでかいパトリックの脇から部屋の奥を指差した。
ギクゥ! と背中をビクつかせた男子二名の横で、手榴弾を分解し終えたニーカが、椅子の音を立ててカウンターを振り返った。
「ちょうど良かった、◆。この人たち連れて帰ってよ。ここをお喋りサロンだと勘違いしてるみたいだから」
作業のジャマ、とこともなげに云いながら、バインダーを手に取ったニーカに、ザップが口を尖らせた。
「俺らから心地良いサボり場を奪うのかよ、姐さん」
「堂々とサボり場ゆーな、スタンガン当てるわよ」
手榴弾の部品を手に取っては何かを書き出していくニーカに、◆は持ってきた荷物の一つから、可愛らしい小さな袋を取り出した。
「じゃあ、これはニーカへの賄賂かな」
その言葉に、ポニーテールが勢いよく揺れたかと思うと、カウンターには既にニーカが到着していた。見たことのない彼女の素早い動きに、レオナルドが目を見開く。
「“◆のチョコチャンクスコーン”!!」
そのまま齧りつく勢いの彼女に、◆が笑いながら包みを渡すと、これもまたあまり見られない目の輝きを浮かべて、ニーカはザップたちを振り向いた。
「アナタたち、◆に感謝しなよ? このスコーンに免じて今日は見逃してあげる」
るんるん、と音が聞こえてきそうな様子で、小さなキッチンへ向かう小さなエンジニアに、「姐さん、それ好きなー」とザップが肩をすくませた。
パトリックは、クラウスの差し入れであるドーナツを早くも一つ平らげ、◆に向き直った。
「――んで。本題は武器だろう」
「一週間じゃ無理かな」
腰の得物をホルスターごと外し、ゴトリ、とカウンターに置く。
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