視たからには! (4/7)

「なんだお前たち、遅かったな」
 小競り合いにでも巻き込まれたかーと、とスティーブンに大雑把な心配をして貰った三人は、イヤイヤへへへ、と誤魔化すしかない。
「お帰り、三人共。さっそくだが、テーブルに置いてある資料に目を通してくれ給え」
 長い昼食休憩から戻った部下に、クラウスは嫌味を云うわけもなく、パソコンから顔を上げるとローテーブルの冊子を指した。
 それに返事をして手に取り、各々ソファや壁際に落ち着く。
(……そう云えば、クラウスさんって、◆さんの“裏向き”のことって知ってるのかな)
 でも前に二人で交渉とか行ってたっけ――レオは考えながら、文字を追う。
 そこそこページ数のある資料に、とりあえず目を通し終えた頃。
「おはようございまーす」
 話題の人――三名の中に限る――が事務所に姿を現した。
「おはよう、お嬢」
 マグカップを持ってデスクから立ったスティーブンが片手を上げると、◆は少し意味ありげに微笑む。
 その様子を見るに、あの高級リストランテの光景には、やはり副官が絡んでいるらしい。
「…………」
 覗き魔三人組は、なんとなく◆を目で追ってしまう。
「おはよう、◆」
「おはようございます、クラウスさん」
 クラウスのデスクに向かって軽く頭を下げた彼女は、テラスで見たワンピースではなく、いつも通りの白シャツに赤いリボンを結んだ服装で。髪もメイクも、腰に下げた得物も、全て見慣れたものだった。
「遅くなっちゃってすみません……あ、その資料、大丈夫でした?」
「ふむ、侵入経路で少々引っかかるところが」
「やっぱり? 一応、難解な箇所は立体図を使って説明しようかなって――」
 デスク越しに話し合う二人もいつも通り。◆の表向きも裏向きも、思い出すとあまり落ち着かないレオナルド少年は、なんだかホッとしてしまった。
「着替えてしまったんですか? ◆さん」
 が、ここへ爆弾を投下するのは。
「えっ?」
「ワンピース姿、ちゃんと見られるかと思ったんですが」
 全くもって悪気のない半透明の彼と。振り向く◆と。そして、同時に鼻水を吹いた男が三名。
「……えっと、もしかして」
 ◆に焦った様子はなかったが、その頬が少し引きつっている。
「旧マディソン・アベニュー沿いのリストランテに、男性といらっしゃいましたよね? 事務所に戻る時にちょうどレオ君が見かけまして――」
「ツェ! ツェッドさん……ッッ!」
 いや、黙っておこうとか云わなかったよ!? でもさあ一応俺たち覗き見してたんだよッ!? あとスティーブンさんの感じからして、多分クラウスさんに秘密なんじゃない!? と頭の中の全レオナルドが総ツッコミをしつつ犯人を見れば。

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