視たからには! (2/7)
「状況説明しますと、◆さんが右、相手の男性が左の席に座ってますね。◆さんの顔はよく見えるけど、相手の人は見えないな……ザップさん、構成員じゃないですよね?」
「俺だって全構成員を知ってるわけじゃねーが……多分違うな。つーか雰囲気が全然“仲間”じゃねぇじゃんかよ」
云われてみればそうだ、とレオは二人をまじまじと見つめた。
◆と男性は楽しそうに食事をし、話を弾ませていた。その様子は、◆が自分たちと話すものとは全く違っていた。が、ダイナーなどで見る男女の風景と云うのも、また違う気がする。
さて、観察されているとも知らず、ドルチェも終えた二人のテーブルには、カメリエーレが食後のカフェを持ってくる。
エスプレッソを嗜む◆を眺め、ふと、レオナルドは気付いた。
「なんか……女優さんみたいですよね」
◆は普段と全く違う趣のワンピースを身に着けていたが、髪型やアクセサリーもメイクも違った。が、違うのはそれだけでなく、彼女が纏う雰囲気がまるで違う。
服装はドレスコードがあるリストランテでは当然だが、その佇まい――レオナルドの頭に浮かぶのは、古き良きハリウッド映画の大女優の名前だった。
「女優? レオ君、もう少し詳しくお願いします」
近眼で遠くはぼやけてしまうツェッドは、若干前のめりに説明を求める。
「なんか……服装が綺麗なのは前提として、所作とか、風で髪がなびいているのもなんか、それすら◆さんがさせてるんじゃないかって感じで」
「ほう……?」
「今微笑んでるんですけど、それにもなんて云うんですかね、気品? がありますね……カトラリー持ってる感じも、食べるのも、口にカップを持っていくのも全部、絵になると云うか」
今の◆は、髑髏が彫られた黒いコンバットナイフを振るったり、気さくにスイーツの差し入れを寄越してくる彼女とは180度違う――完璧な“淑女”だ。
「ギルベルトさんに“お嬢様”って呼ばれてるのも頷けちゃうなぁ」
ぽつり、とレオがこぼせば、ザップが咥えた葉巻に火をつけながら「そりゃな」と応えた。
「アイツは旦那ンとこで、そーいう作法っつーの? 叩き込まれたらしいぜ」
「やっぱりそうなんスか」
もはや驚きもしない。彼女の出自は知らないものの、とにかく“アレ”はそういう教育の賜物に違いなかった。
「――ま、それは表向きのもんだけだがな」
「“表向き”? 裏向きもあるということですか」
この場で知っているのが自分だけだという優越感ゆえか、珍しくツェッドに対しても嫌味を云うことなく、いわゆるドヤ顔で頷いたザップが手に取った葉巻で◆を指す。
「アイツらが今、何話してるか分かるか?」
食事を終えた二人は楽しそうにご歓談中だった。
男性はしきりに◆に話しかけているが、とにかく身振り手振りが大きい。◆はそれに相槌を打ち、口許に緩く握った手を当て、可愛らしくクスクスと笑う。
「声は聞こえませんし、僕はよく見えないって云ってるじゃないですか……まあ、おおかた男性の自慢話でしょう」
レオナルドもそう感じた――が。
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