視たからには! (1/7)

「――あり?」
 レオナルドは思わず声を上げた。
「あ? んだよインモー頭」
 少し前でランブレッタを走らせていたザップは、ちょうど赤信号で停車し、追いついてきたレオを振り向いた。
 レオのバイクでタンデムのツェッドは、運転手がしきりに後ろを気にするので首を傾げている。
「どうしました? レオ君」
「や、さっき通り過ぎた店のテラスに、◆さんらしき人が見えたので」
 よそ見をしていたわけではないが、見えたと云うより“映り込んできた”のだ――クラウスと似た色のオーラが。それに意識を持っていかれたのである。
「◆? 別に赤リボンした女なんてどこにでも居んだろ」
 興味無いのか、ザップは前に向き直ってしまった。
「赤いリボンは多分してませんでしたよ。一瞬だけど、綺麗めなワンピース姿で、男の人と居たような……」
 そう、そちらがレオが気にする理由である。
 昼食から事務所へ戻る道中、構成員を見かけるなんて偶にあることだが――
「何ッ!? 旦那とじゃなくてか!」
 再びザップが、今度は勢いよく振り向いた。
 あの◆が旦那以外と!? と、何故か急に興味津々な様子である。が、それはレオも、そしてツェッドも同じだった。
「……ちょっと気になりません?」
「もしかしてデート中でしょうか」
 やっぱりこの人“云う”よなぁ、とツェッドの言葉に笑っていると、信号が青になった。
「よっしゃ、インモー! 魚類! ついてこい!!」
 そう云ったザップは、帰路ならば直進するはずの交差点を左折していった――



「ここか? 陰毛」
「単語で呼ぶな! そうっす、ココっす」
 寄り道三人組はバイクを押しながら、レオが◆を見かけたという、通り沿いの店の周りを不審者よろしくうろついていた。
「ここって……有名な高級リストランテですよね」
 そもそもこの区画が、割とセレブな雰囲気であり、立ち並ぶのはハイブランドショップ、住宅はデザイン性で高級感を醸し出している。三人はとにかく場違いで、ソワソワするレオとツェッドだったが、ザップはてんで気にしていない。
「んで、どこに居たんだよ、アイツ」
 白い塀に手入れの行き届いたグリーンが続き、通りからの目隠しになっていたが、入り口は小洒落た黒いフェンスになっており、そこから少しだけテラスとテラス席が見えた。
 店員に怪しまれないよう、フェンスにあまり近付き過ぎない程度に三人は中を覗き込む。
「――ほら、あそこ」
 入り口からは、これまたよく手入れされた、草花がセンスのいい庭と小径が伸びており、その先にレオが云う通り、◆がテラス席で食事をしていた。
「……よくまあバイク走らせながらそのうんこヘタレ糸目でこの隙間から見てワンピースの◆って判断したなウンコ」
「なんで仲間を見つけただけで一息に罵倒されなきゃいけないんスかね、あとウンコ二回入れんな」
「僕は近視なのでよく見えませんが……」
 眉間に皺を寄せ、頑張って見ようとしているツェッドを可哀想に思いつつも、さすがに覗き見に“視界共有”を使うのは気が引けるよなと、やめておくレオである。

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