Nightmare&Sugar (4/4)

 実年齢よりもずっと幼く見える寝顔を。それから、Tシャツの広い襟ぐりから、いつもならYシャツやブラウスの襟に隠されている鎖骨を、幅広の袖口から伸びる白い二の腕を、長いシャツの裾から覗く少しのショートパンツの布地と、そこから惜しげもなくさらけ出された脚を。順々に見ていき。
 普段より露出が高いのだな、と意識すれば、どくどくと感じる血流――滑らかな太ももに喉を鳴らしたつもりはなかったが。
「坊ちゃま」
 いつものごとく、居ても居なくても分からないような佇まいで待機していたであろうギルベルトが、◆の執務室にあったブランケットを差し出した。
「……」
 無言でそれを受け取ったのは自分の視線を誤魔化すようでもあったが、果たして優秀な老執事は何を云うこともなく、す、とソファを離れていった。
 ◆のお気に入りであるワインレッドのブランケットを彼女に掛けてやると、満足そうな寝息が聞こえる。
 その寝顔をもう一度見ると、目元がほんのり赤い――きっと、泣いたのだろう。
「“いつもの”……あの、悪夢だろうか」
 自分が泣いたことに気付いていなかったようだ。しかし、「おはようございます」と云った彼女の目は少し腫れぼったく、潤んでいて。
 息が詰まる。
「未だ蝕むか、彼女を……」
 “あれから”どんなに時が経っても、◆は眠りの中で傷を負う。
「君の夢の中へ行きたいものだ」
 ロマンチックに聞こえる台詞だったが、その真意の光景は残酷だった。彼女の眠りを妨げる悪魔はこの手で叩き潰し、それから――
 知らず拳に力が入ると、◆が身じろぎ、ハッと息を呑んだ。
「すまない……」
 怒気を逃すように口から長く息を吐くと、握りしめた手を解き、つい想像した血闘のことなどまるで感じさせない柔らかな手付きで、◆の頭を撫ぜる。
「私も、しばし休もう」
 同じ夢を見れたなら。そんな願いを胸に、クラウスは目を閉じた。



「やっだ! クラっちに膝枕される◆っち、久しぶりに見たわ! 写メ写メ!」
「K.K、静かに……」
「うっさいわよ、スカーフェイス。声抑えてんでしょ」
 いや抑えられてないから、と肩を竦めるスティーブンに構わず、や〜ん可愛いわねえ二人ともっ! と、スマホをパシャパシャ鳴らすK.K。
 腕を組み軽く俯いたクラウスと、その影の中でひたすら穏やかに眠る◆――居眠りするクラウスを見るのはレオナルドは初めてだった。
「“久しぶりに見た”って、前は結構あった光景なんですか?」
「まあね、少年……お嬢がいる時にはよくあったよ。すぐクラウスが甘やかすからな」
 困ったようにそう云うスティーブンも、多分負けないくらい甘いのではと思いつつ。
「……きっと、あまり眠れていないんだろうな」
 ぼそり。そんな呟きは聞こえないフリをしておく。
「姐さん、撮り過ぎ」
 嗜めるチェインも、K.Kのスマホ画面を見て珍しく頬を緩めている。
「だって〜」
「でも分かります、非常に微笑ましい」
 ツェッドの声にレオが振り返れば、兄弟子が来ていなくて良かったです、と澄ました顔であり、
「“そのうち分かる”とは、こういうことですか? レオ君」
 と、微笑むので、レオはなんだか可笑しくなって、ニッと歯を見せた。
(抱っこ、でこチューに続き、膝枕か……)
 次は一体何をお目にかかるのだろう。
 この義眼に二人を映せば、相変わらず同じ色のオーラである。
「夕方の会合までまだあるな。それまでは起こさないでおいてあげよう」
 副官の号令に、うぇーいと返事をしたメンバーは、ソファのオブジェを見物するのはやめ、各々の居場所を見つけて散っていくのであった。




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