Nightmare&Sugar (3/4)

 誘惑に負けましたと笑う◆に、クラウスも微笑み返すも、ふとその表情は険しくなった。
「◆……HLに戻ってきても、よく眠れていないのではないかね」
「――!」
 外の任務についている間、あまり眠れず食べられずということは告げたが、“それ”は話してはいない。◆は思わず頬を触る。
「……あ、私……そんなに顔、酷いですか?」
 そう訊きながら、もしかして先ほど魘されていたことに気付いているのか、と、その眼鏡の奥を窺う。
 しかしクラウスはゆるく首を振った。
「君は不調が顔に出るタイプではない。だから、君の機微が少しでも解るようにと、私は気をつけているのだが」
 ◆は隠し事が上手いのでね、と少しおどけたように云うので、気が抜けたような、少し救われたような気持ちで◆はボトルに視線を戻した。
「ふむ……ならばちょうどいい。仮眠室でよく眠れなかったのなら、此処で横になり給え」
 何が“ちょうどいい”のだろうか、と◆は訊かなかった。
 キャップを締めたボトルをテーブルに置き、我がリーダーを見上げると、至極真面目な顔で自らの膝を叩く。
「“ここで”?」
「そうだ、此処で」
 なぜ“ここ”なのか、とも◆は訊かなかった。
 何故なら、クラウスが自分に向ける言動は全て優しさだからだ。疑問に思うことなどあるだろうか。
「会合は夕方からだ、それまで時間はある。此処で一休みし給え」
 しかし、職場のソファで上司に膝枕というのは――さすがの◆も気が引けた。
 頭の中でいろいろ考えている彼女を見て、躊躇っていると判断したのか、クラウスは首を傾げる。
「もし――私に遠慮しているのであれば寂しい。私は君に甘えてほしいのだ」
 そうではなかった。が、◆は眉を下げて頷くだけだった。
「じゃあ、お言葉に甘えて。お邪魔します」
 クラウスの方を向いて横になり、その逞しい太ももに頭を乗せる。膝枕など初めてではなかった。この筋肉にはよくお世話になっていたのだから――
「……あったかい」
 この布の下、皮膚の下、世界を守るための血潮と筋肉と体温が、◆の心をまるでトーストの上のチーズのように溶かしていく。
「草のにおい……」
 甘えるように自分の腹に鼻先を寄せてくる◆を見下ろして、その髪を優しく撫でたクラウスは、
「安心して眠り給え」
 そう、こめかみにキスを落とした。
「ん…………――」
 それを合図に、本当にプツリと◆の意識が切れた。
 彼女の重みと温もりを感じた太ももは心地よい。
 クラウスは、健やかな寝息を立てる◆を慈しむように見つめてから、その彼女の髪を撫でた自分の手の平を開く。
「…………」
 ――最近、妙だ。
 自分から触れるのは平気なのに、彼女から触れられると心臓が揺れてしまうのは何故だろうか。
 再び、クラウスは自分の手の平から、◆を眼下に見る。

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