おにぎりがないとね (7/7)

「私は腹黒いと思ったことないよ」
 そう云って、◆はレオの腰を掴んでいた腕をふっと緩めた。
「冷血漢とか云われるけど、その逆。とっても情熱がある人だと思うの。分かりづらいけどね……じゃなきゃ世界なんて救おうとしないでしょ? ……姐さんだって分かってるから、もどかしいんじゃないかな。一人でこなしちゃうタイプだから、ミスタは」
 云われてみればそうだ。
 命を懸けて吸血鬼、魑魅魍魎どもに挑む彼は、なんのためにその脚を蹴り上げるのか。世界を牛耳るでもなく均衡を保つためとは――
「クラウスさんが分かりやすいだけで、ミスタ・スティーブンも素直で優しい人だよ。だから私は彼が好きだし、信頼してる」
 その顔を見なくても、◆が今優しく微笑んでいるのは分かって、レオも自然と口角が上がる。
「さっきはちょっと面食らったの、でも嬉しかった。私にとっては上司であり同志であり、兄さんみたいな人だから――うん。スティーブンが私を信じようとしてくれた瞬間から、私たちは仲良しなの」
「信じようと、してくれた……?」
 少し謎を持つその言葉を繰り返すも、◆はウン、と頷くばかりである。
「結局ね、ライブラが大切なんだよ、ブンブンは。だから、レオナルドのことも大切だよ」
 そこでどうして自分の名前が挙げられたのか。
 こう云われてしまうと、「三人とも仲良しですよね」という言葉がただの拗ねた子供の発言に思えてきて、レオは急に恥ずかしくなった。
「イヤ、あの、嬉しいですけどね! 違くてですね!?」
「あはは、分かってるって。で――誤解は解けた?」
 ああ、そうか。
 見慣れたビルを視界に捉えながら、◆からの言葉の意味を理解する。
(◆さん、本当にスティーブンさんが好きで、信頼してるんだ……)
 今まさにレオナルド少年は、彼女によって「ライブラ構成員・スティーブン・A・スターフェイズ」がどれほど素晴らしい男かをプレゼンされたのだ。そして、だから貴方も、自分と同じだけ彼を信頼していいんだよ、と。
 それは少しズルい気もする、とレオは思う。彼女はスティーブンと同じく、否、彼以上に謎だらけだ。
 角を曲がり、徐々にスピードを落としていくバイクのハンドルをぎゅ、と握る。ふと、何故かよぎるブランチのライスボール。
(でもさ、ミシェーラ……こんなにも他人に全幅の信頼を置く人を、信じられないわけがないよな)
 歩道に寄せたバイクが完全に停止すると、◆は「Thanks」とレオの腰から手を離し、ゆっくり降りていく。
「ライブラが大切なのは、僕も、◆さんも、同じでしょう?」
 歩道に立った彼女を、バイクに跨ったまま少し見上げる。
 一瞬、目を見開いた◆だったが、すぐにエヘヘとはにかんだ。
「そうだね」
 彼女が、クラウスとスティーブンに愛されるわけが、少し解った気がした。




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