おにぎりがないとね (6/7)

「――あ、スティーブン先生? さすがナイスタイミング!」
 走り出してすぐに◆のスマホが着信を知らせた。
 ちなみに、行きと同じく、◆はレオの腰に腕を回してはいたが、早くもタンデムの要領を得たようで、しがみつくような体勢にはなっていなかった。
「うん、こっちも終わって今レオと戻ってるところ――うん? ああやっぱり、チェインが先に伝えてくれてたのね。声掛けてくれればいいのに……あはは、ほぼザップが片付けてたから。あ、レオも活躍してました!」
 ね! と、お給金に反映されるのか分からないが、アピールしてくれる◆には感謝である。
「もちろん、怪我はありません! 当たり前でしょ? ――あ、クラウスさん?」
 くだけた話し方から一変、畏まったわけではないが、明らかに声の響きが変わった。朗らかなのは変わりなく、しかし“絶対的な何か”を感じさせる凛とした声。
「そちらも無事ですね、良かったです……はい、ポリスを回避しつつ」
 その“何か”は今のレオナルドには判らなかったが――
「ええ、三人とも怪我はないですよ……ふふ、大丈夫ですって! そんなに頼りないです? 私」
 クラウスの声はレオには聞こえないが、その巨躯を丸めて心配そうにしているリーダーが目に浮かんだ。
「はい、では事務所で」
 ◆が通話を切ったところで、信号が赤になりバイクは停車した。
「仲、良いですよね」
 信号待ちで手持ち無沙汰なのもあり、レオナルドは再び何となく思っていたことを口にした。
「ん?」
「◆さんとクラウスさん、スティーブンさん。仲良しですよね」
 長い付き合いなんでしたっけ、と背中越しに◆に訊ねる。
「そうだね……クラウスさんとスティーブン先生は、私が出逢うよりもっと前からの仲だから、そこには負けるけど。でも、仲良しって云われたのは初めて」
「そうなんですか? スティーブンさんなんか、あんなにくだけて話してるのって◆さんくらいじゃないですか」
 それぞれの関係性というのもあるだろうが、◆を特に可愛がっている様子がある。それはまた、クラウスが彼女に向ける眼差しとは違う類だ。
「私とミスタ、仲良しに見えるんだ?」
「え、違うんですか!? K.Kさんが云ってるように、スティーブンさんはやっぱり腹黒男……!?」
 まさか全て演技だと!? と、焦ったところで信号が青になり、レオはバイクを発進させるが、後頭部には可笑しげな声がかかる。

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