おにぎりがないとね (5/7)

 ゴーグル越しに彼女の手元をチラリと見ると、重たそうな黒い得物の刀身には、ドクロとクロスが浮き彫りになっていた。ホルスターもそうだが、武器も彼女の見た目には大変似つかわしくなかった。
「結構ハードなデザインなんすね、そのナイフ」
 三人がかりで雄叫びを上げてきた教徒の視界をシャッフルし、その合間に声を掛ける。
「ドクロ、クラウスさんの作る十字架のやつに似てません?」
「そう、アレを模してるの! エグくてカッコいいでしょ!」
 レオを振り返って嬉しそうに笑った◆は、まるでダンスするかのようにターンして、背後の敵を斬ってみせた。
「エグいって、ソレ褒めてるんです?」
 離れた場所でザップは戦っているらしく、少し遠くで大きな音が聞こえた。
 二人の周辺も最初は教団の白装束で埋め尽くされていたが、本日の目玉的な巨大チェーンソーを持った敵を◆が斬り倒してからは、次第に数を減らしていき、そろそろ終局を迎えようとしていた。
「よーし、お片付け終了!」
 クルクルとナイフを回してホルスターに収めた◆は、煙立つ通りを見回している。
 ザップを探しているのだろうと、レオも義眼で視つつ、今しがたの戦闘のことを考えていた。
(やっぱり◆さん“も”戦える人なんだな……相当手練だろうけど、純粋な斬撃にしか視えなかった。得物に何か仕込んであるとかじゃなさそうだし)
 「血闘術」「血凍道」「血法」「血弾格闘技」など――自らの血液を武器とする者が多い中で、彼女はどう戦うのかと思っていたが、どうやらどれにも属していないようだった。
(だとすると、◆さんは――)
「んだよ、もうシメェか?」
 その声の方を見ると、騒ぎの中心でやりたい放題やっていたであろうザップが、血法をおさめてこちらへ戻ってきていた。
「大事無いね? ザップ」
「バカヤロウ、誰に云ってんだ」
 咥えていた葉巻を後ろに向かってプッと吐き捨てれば、教徒たちが重なって倒れている通り一帯が、音を立てて炎に包まれた。
「めんどいの来る前にとっととずらかんぞ! あっちからサイレンが聞こえっから別の道から行けよ」
 憂さ晴らしを終えてスッキリした顔のザップは、既にランブレッタに跨っている。
「了解。報告は――チェインがその辺に居たかもしれないけど、道中でしておくから」
「応。レオ、運転出来んな?」
「あ、はい! ◆さん、乗って下さいっ」
 そうして、◆を乗せたレオナルドはバイクのエンジンをかけ、ザップが云った方角とは反対の通りへ発進させた。それを見届けてから、ザップもまた違う道に消えていくのだった。

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