おにぎりがないとね (1/7)

「おはようございまーす」
「あ、◆さん。おはようございます」
 お早う、と云っても、時刻はブランチの時間である。
 この秘密結社に決められた出勤時間はなく、会合などがあればそれに間に合えばいいし、謂わばフレックス。決まった時間に出勤しているのはクラウス(withギルベルト)とスティーブンくらいだ。
 チェインは人狼局に寄ってから来ることがあり、レオナルドもアルバイトがあったりで、見慣れたメンツが揃うのは大体がこの時間だった――ザップは論外である。
 意外なことに、幹部である◆も自由な時間の出勤を常としていた。
「おはよ、レオ――あれ、ザップもいる」
 事務所に居たのはレオナルドとザップだけだったが、◆は不思議そうにフロアに入ってきた。
「オウ?  お前、馬鹿どもの鎮圧に旦那たちと向かったんじゃなかったんか」
 長ソファにだらしなく寝転んでいたザップが頭を起こす。
「うん、あっちにはK.K姐もいってるし、お嬢は事務所で待機してろって先生がね」
 朝から血気盛んな者たちのせいで、クラウスたちは早いうちから市街へ出動しているのだった。
「ほら、暴動とかって触発される人たちが居るじゃない?」
「二次的なヤツの警戒っすか」
 レオナルドの隣の席に◆も座し、抱えていた紙袋をローテーブルに置く。
「そうそう……でもザップも行ってるかと。レオはともかく、チンピラ戦闘員が残ってるのは珍しいね」
「うっせぇ」
 どこかつまらなそうに見える銀髪のお猿さんは、背もたれの方をプイと向いた。
「あー……僕ら珍しく早くに詰めてたんすけど、ザップさんが朝、クラウスさんに飛び掛かった時に植木鉢を割っでええッ!?」
 からかうように笑っていたレオの頭には、血法の拳が撃ち込まれていた。ザップはあちらを向いたままである。
 いてえ! ひでえ! と喚く少年のくせっ毛が揺れて面白い。
「なるほど。お留守番というバツを受けてるわけ」
「ったくよー! 旦那もあー見えて短気だかんなー!」
「いや、普通にザップさんが悪いと思いますけど」
 鼻先で血の塊が空を切るのも構わず、レオナルドは正論を云い放つ。おそらく、“こういうところ”がザップにとっては気持ち良いのだろう。
「クラウスさんが意外と短気なのは認めるけど、今日のは正当な対応でしょ」
「ンだよ、二人して俺を悪者みてえによ!」
「だからアンタが悪いって云ってんだよ!」
「オウオウ、偉そうに云ってくれるじゃねェか陰毛頭!」
 全くもってこの二人は――と、聞くに堪えない低レベルな罵詈雑言を掛け合っている“良き仲間”に、◆はケラケラと笑った。

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