クチナシと愉快なメイドたち (7/7)

「ありがとうございます、クラウスさん。あれは冗談ですよ」
 けれど、◆はいつも通り、にっこりと微笑んでしまう。
「……」
「だけど、私が“牙狩り”として役立とうとしても一人では無理だから……一人じゃ戦えない私が無力なのは本当です」
「そんなことはない! 私とて単独で“彼ら”とは――!」
「でも、」
 ふと、◆の笑みが消え、少しだけ表情が引き締まる。
「クラウスさんと居られる理由になるから」
 そう云って、クラウスの大きな手を取り、小さな両手でぎゅ、と掴んだ。
「一人でいるのは無力だけど、あなたと居る理由になる。だったら私は、ただ強くありたい。少しでもあなたの力になれるように……それが……大袈裟かもしれないけど、私の生きる意味です――って、クラウスさんは知ってますよね?」
「……◆」
 握られた手を、クラウスは◆の頬に持っていき、冷えたそれをそっと包めば、彼女は視線を逸らしてしまった。
「クラウスさんは、私のことは気にしないでいいんです。前を見て、世界を守るリーダーであって下さい」
「っ、何を云う……!」
 焦って声を上げるクラウスを見上げ、頬に触れた手に自分の手を重ねた◆は、再びふわりと微笑んだ。
「私はその背中を追いかけて強くなります、きっと。あなたの傍に居られるように。ずっと傍に置いて貰えるように」
 強くなりたい、と独り言のように掠れた声で云った◆に、思わず力が入る手の平。
「……◆、私は……」
「さて――じゃあ、私はそろそろお暇しなくちゃ。このまま夕飯をご馳走にでもなったら、メイドさんたちが帰してくれなくなりそうだもの」
 サックリと、話題に綺麗な切れ目を入れて、◆が手を放す。
「……」
 ここまでか、とクラウスは自由になった左手を知らず握り締めた。
 目の前に浮かんでいる◆の笑顔は作り物ではない。だからもう、この話を先に進めることは出来ないのだ。
 彼女がそうしたいのなら、そうさせるべきだ、と。
「では自宅まで送ろう、◆」
 自分はそう云ってやることしか出来ないのだから――前を見て、世界を守るリーダーも形無しではないかと――クラウスは小さく息を吐いた。
「……Danke schön。ヘル・クラウス」
 しかし、◆がエヘヘと頷き、歩き出した自分についてくるから。
「Bitte schön、フラウ・◆」
 自然と上がってしまう口元をそのままに、クチナシの香りが移った彼女の歩幅にそっと合わせるのだった。




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