クチナシと愉快なメイドたち (6/7)

「そうですね……おやつを頂いて、またお風呂に入れられそうだったから、お庭が見たいって云って。ふふ、ちょっと一人になりたくて逃げてきたんですけど」
 ここには二人の他に誰も居ないのに、◆はいたずらっぽく声を潜める。
「実は、キャスリーンメイド長からお電話もあって! 崩落からしばらくですね〜って話してたら、しまいには“今からそっちに行く”とか云い出してもう、なんとか止めて」
 キャスリーン・ベイツ――ラインヘルツ家のメイド、執事らを統率する女性である。ドイツの本邸からギルベルトの仕事ぶりを把握したり、クラウスの様子を確認してきたりする、完璧なメイド長と云えよう。が、◆に対してはやはり、他のメイドたち同様らしい。
「君は本当に、うちのメイドたちに人気がある」
「うーん、有難いことではあるけど」
 困ったように笑いながら、◆は邸を振り返る。
「でも、みんな優しくて大好きです。昔からそう……私なんかにこんなに良くしてくれて」
「皆、したくてしていることだ。卑下することは何もない」
 すると、邸の方を見ていた◆はくるりと振り返り、クラウスを見ると肩をすくめた。
「……久しぶりにここへお邪魔出来て良かったです、とても楽しかった。――昨日はクラウスさんにご迷惑をお掛けしました……ですよね?」
 昨夜の慰労会のことは何となく覚えているのだが、ワインを飲んでレオたちとじゃれた後、どうしたか記憶が曖昧だった。目を覚ましたらクラウスの家のベッドだったのだ。
「そうか、君がうちに居る理由を説明していなかった」
「なんとなく想像つきますけどね」
 ◆の言葉に、クラウスはふ、と微笑む。
「君は昨夜ワインを飲んで眠ってしまったのだ。そのまま自宅へ帰せないと私がここへ連れ帰っただけで、何も迷惑は掛かっていない。それに、君が楽しそうにしている姿が見られて、私も楽しく過ごすことが出来た」
 とてもいい慰労会だった、と頷くクラウスに頭を撫でられながら、◆は、メイドたちと似たようなことを云うなあとぼんやり思っていた。
「……◆、その……牙狩り本部のことだが」
 ふいに、クラウスが手を下ろして切り出した言葉に、緊張が走った。
 ◆は徐ろに顔を上げ、視線を合わさないクラウスのメガネを、ライトに反射するレンズを見つめる。
「個人任務については、◆の能力を買った上での指示だと思っている。事前に打診もなく、突然命じられたのは私も戸惑ったが、決して君を役不足だと判断したわけではない」
 ――牙刈りとして役立たずだから命ぜられたんじゃないかって――
 ――やっぱり牙狩りは私のこと嫌いなんだ、嫌がらせだ――
 ◆がそう口走ったのが、ずっと引っかかっていた。一年間の任務につく前でも、時折そんなことを零していた彼女だったが――やはり“気にしていること”は、ライブラのメンバーに痛いほど伝わってくるものだ。

- 22 -


|




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -