クチナシと愉快なメイドたち (4/7)
「……その、朝食より優先したいことがあったのだ」
「庭の手入れに時間を食うからってかなり早起きしてる君が、他のやりたいことのために朝食も犠牲にするだなんて。君は体がデカいんだから、食事を疎かにしたらだめだろう」
「う、うむ……」
この鍛え上げた身体を思うように動かすにはそれなりのエネルギーが要る。それは自分がよく分かっていることなので、肉がたっぷりと挟まれたサンドを、クラウスはフォークで黙々と口に運ぶしかない。
「ウチは割とフレックスなわけだけど、君が毎朝きちんと決まった時間に来るところ、ザップにも見習って欲しいもんだよ」
やれやれ、とスティーブンがジャケットを脱ぐと、ギルベルトが歩み寄り、それを受け取ってハンガーへ掛ける。
礼を云いつつ、溜まった未読メールを開いていくスティーブンは、顔はそのまま「そう云えば」と再び口を開いた。
「◆はどうだい? まだ寝てたかな」
君が“お持ち帰り”しただろう、と茶化してみるが、クラウスには効果がない――解っていて云ったことである。
「いや、私が部屋へ向かったら既に目を覚ましていた。気分は悪くないと云っていたが……今頃、メイドたちに囲まれて賑やかにやっていることだろう」
「……ああ、なるほど。君の邸では休めないって、そう云うことかい」
机の上のFAX機に数枚書類が届いていることに気付き、スティーブンはピッとそれを手に取る。
「うちのメイドは、どうにも◆に世話を焼きたがるのだ」
「アハハハッ! 主人によく似てるじゃないか」
書類に目を通しながら、クラウスの言葉に思わず吹いてしまう。ギルベルトが淹れたコーヒーを口に含む前で良かったと、声を上げて笑った。
しかしながら、こちらの言葉もクラウスには難解だったようで、
「?」
と、こちらを怪訝そうに見ている。
「く、ふはは……いや、何でもないよ……!」
くっくっく、と肩を震わせながら手の平を振るスティーブンに、クラウスは首を傾げるばかりだったが、直後、珍しく会合の時間前に現れたザップがミラクルな飛び蹴りを仕掛けてきたため、しょうがなく席を立つ。
「すまないが、ザップ、私は朝食を済まさねばならない」
一瞬にして勝負が決まり、ザップは泡を吹いて床にノび、そこへチェインが出社、殴られたり踏まれたりの現場にレオがやってくると云う、なんともカオスな状況で、ライブラの朝は始まるのだった。
「ねえ、お風呂なら自分で入れるって……」
クラウス邸の広い広いバスルーム。
そのドアの前で、数人のメイドたちに服を剥がれながら、◆は形ばかりの抵抗を試みる。
「遠慮しないで下さいまし、お嬢様」
「遠慮じゃなくて、恥ずかしいの」
下着もパパッと外されて、バスルームへ引っ張って行かれる。小さな子供でもあるまいし、更には勝手知ったる場所なのだ。世話を焼かれずとも風呂にも入れるのだが――。
「まあ、お嬢様! 坊ちゃまでさえメイドやボーイに任せて下さいますのよ?」
腕まくりをしたメイドが広い浴室に何人も控えており、泡風呂を用意したり、ぬるま湯を◆に掛けたり、手を取ってネコ足のバスタブに入れられたりと、とにかく至れり尽せりだ。
ちゃぷん、と久しぶりの湯船に息をつきながら、◆は唇をとがらせる。
「だってクラウスさんは貴族だもの。私は庶民なんだから……」
「何をおっしゃいますか」
◆の両サイドにメイドが立ち、両腕をするするとマッサージしていく。後ろに立つメイドは彼女の華奢な肩を同じようにマッサージしながら笑った。
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