また一興 (4/7)

「◆、君は体の不調が顔に出にくい。けれど、疲れていることは誰もが分かる状況だ。ゆっくり休むといい」
「……」
 むしろ休んで欲しい、そうしてくれ! って顔に書いてあるな――と、スティーブンは笑いを堪えきれず、ニヤニヤしながら自分の机へ向かう。
「お嬢、どうしても仕事がしたいと云うのなら、今すぐ帰って、シャワーを浴びて、ゆっくり眠ることだ。なんなら、夕飯を手配させてもいいよ」
「そんなに借りを作らなくても、休み明けからはたっぷり働くって」
 ◆はケラケラとそう頷き、最後のドーナツの欠片を口に放り込むと、紙ナフキンで手を拭いた。
「美味しかった! クラウスさん、ご馳走様でした。ギルベルトさんもありがとう」
「フフ、ではお嬢様、お帰りのご支度を」
「はい、じゃあ荷物取ってきますね」
 そして、自分の執務室から戻ってきた◆は、お先に失礼しますと頭を下げ、云われた通りにさっさと帰って行った。
 しばらくして、FAX済みで不要になった報告書の処分を任されたレオは、文字がびっちりと打たれた書類を適当な束に分けていく。その横では、満腹で寝そべるソニックが鼻ちょうちんを作っていた。
「…………◆は大丈夫だろうか」
「ドーナツ頬張ってた時点で心配ないよ。若いねえ」
 俺なんて徹夜明けは何も受けつけないのにさ、とスティーブンは再びファイルを取り、そのまま自分の机へ向かう。
「夕飯はちゃんと食べるだろうか」
「ギルベルトさんがマーケットに寄ってから自宅に、ってさっき云ってたし、そこで何かしら買い込むだろう。気をきかせて何か作るかも」
「変な時間に寝たからと夜に寝付けず、疲れがとれないなんてことは――」
「クラ〜ウス」
 シュレッダーに紙をぶち込みつつ、上司たちの話をなんとなく聞いていたレオは、ブフッと小さく吹き出した。
(クラウスさん、とんだ心配性なんだな……)
 機械に飲み込まれていった大量の力作は、また大量の紙くずと化し。子犬のベッドならかなりいいものが作れそうである。
「心配なら君が行けば良かったろう。いや、君の邸に連れて帰れば良かったんじゃないか? それなら安心だろ」
「む……私もそう思ったのだが、我が邸では彼女が十分に休むことが出来ないだろうと……」
 執務机の椅子に座ってファイルを開いたスティーブンは、ペンと紙を取り、ガリガリと何かを書き始めた。
「へえ、そうなのかい?」
「う、うむ……」
 仕事を進める副官の様子に、クラウスもこのままではと思ったのか、パソコンに向かい直すと、先ほどの続きを打ち始める。
「…………」
 二人の会話はそこで終わったが、レオは“?”を浮かべ、シュレッダーにまた紙を食べさせる。
(……ますます不思議だな、クラウスさんと◆の関係。クラウスさんちに◆さんが行くのが、そこまで特別じゃないみたいな云い方だったし)
 ギルベルトがお嬢様、と呼ぶのも何か引っかかる。
 首を捻りながら、今度は機械の中に溜まった紙くずをゴミ袋に突っ込む。
(――あ、店の内装どうするか、連絡しとかないとな)
 レオはポケットのスマートフォンをごそごそと取り出し、メールを作り始めるのだった。



 ――そして、この堀ごたつ慰労会に至るのだが。
 そんなことをレオが思い返している間に、場の雰囲気はかなり砕けて(もともと畏まってもいないのだが)、おのおの自由にやっている状態になっていた。

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