ただいま (2/2)

「少し前からここでお世話になってます、レオナルド・ウォッチです。気軽にレオって呼んで下さい……ええと、」
 事務所のソファでは、新人・レオナルドと帰還したメンバー・◆の顔合わせとなっていた。
「私は◆。よろしく、新入りのレオナルド・ダ・ウォッチくん?」
「いや、“ダ”は不要でしょ。画家になっちゃうでしょ。てか今名前云ったばっかでしょ」
 すかさずツッコむ少年に、◆はクスクスと笑った。
「さすがのフレッシュさだね、レオくん。構成員ってみんなクセ持ちだから、いちいちツッコミしてたら疲れると思うんだけど。律儀だなぁ」
「僕も好きでツッコんでるわけじゃないんですよ……」
 レオナルドが項垂れると、残り一つとなったチョコドーナツが差し出される。
「“神々の義眼”を持つって子がライブラ入りしたのは、ギルベルトさんの定期連絡で知ってたの。でも、まさかこんなリアクション少年だなんて」
「あ、いただきます――でも眼以外はホント一般人なんで、僕」
 謙遜ではなく本心で。そして役不足だと卑下しているわけでもなく、ただ事実を主張する。
「眼球の王様は謙虚なんだね。でも眼以外は一般人、なんて……私はそれ以下なのに」
 それ以下? とレオが首を傾げるが、◆はティーカップを手に取り、紅茶を飲みつつ笑った。
「ライブラの一員になったのは正解だと思う。義眼保有者がHLを一人で生きるのは、なかなかハードだし、その困難ゆえに孤独だとも思うの。“ここ”はある意味では安全、それに楽しいでしょ?」
 ここが安全で楽しいかについては若干疑問なのだが、孤独ではないと云われれば確かにそうだ。
「私はね、一年前に任務を受けて“外”と“中”を行ったり来たりしていたの。まあ、ぶっちゃけ便利屋的な? 主に外で活動していたんだけど、数日前に本部から任務完了の連絡が来て。それでとにかく急いで帰ってきたところ」
「“外”から……! それはお疲れ様っすね」
 質問をはぐらかされたような気もしたが、特に気にすることでもないか、とレオは軽く頭を下げる。すると、そこにタイミング良く白いジャケットが覆いかぶさった。
「ぬおおおッ!!?」
「ンだよ、陰毛頭ァ、ウマそうなモン持ってんじゃねーか」
 レオの左手にある、まだ手をつけていないドーナツを奪い取るのは、銀のチンピラ・ザップである。
「ザップも変わらずだねぇ」
「オイオイ、おかしいだろ◆! 俺こそ男前になってるっつーの!」
「ちょっとザップさん! 僕がもらったんですよソレ!」
 ソファでケンカを始める二人に、◆は面白いものでも見るように目を丸くする。
「◆、少しいいかね」
 そんな彼女に、奥のデスクから声がかかる。
「はい、クラウスさん。今行きます」
 軍配が上がったのはいつも通りザップだったが、直後現れたチェインに顔を踏まれ、ざまあみろとレオが笑う。
 お猿の顔に靴跡をつけつつ、チェインが軽く手を上げてきたので、◆は同じく手を上げてニッと応えた。そしてソファを立ち、クラウスの執務机の前へ向かう。
「この資料について、二三、確認したいのだが、見てくれるだろうか」
「もちろんです」
 差し出された書類の束を手にし、サラリと捲っていく。
「――……帰還したばかりだというのにすまない」
 不意にこぼされる申し訳なさそうな声に、◆は資料から顔を上げた。
「休暇を与えてやりたいのだが、なかなかそうもいかないのだ。今、君が戻ってきてくれたおかげで片付く案件も増える」
「そんなこと。このHLで毎日命を張って戦うことに比べたら、外で飛び回るのなんて休暇と同じようなものだし……それに、」
 ギャアギャアと騒がしい後ろを少し振り返り、クスリと笑う。
「また“ここ”で、みんなと、そしてクラウスさんと、お仕事出来るのが嬉しいから」
 だから気にしないで下さい、と視線を戻して見つめてくる◆に、クラウスもまた柔らかく口角を上げた。
「ならば私も……我々も、同じ気持ちだ」
「エヘヘ」
 そう云ってはにかんだ◆は、再び資料に目を落とし、クラウスの質問に丁寧に答えていった。




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