1:哀史 [ 9/51 ]


俺のコト大好きな大石がいて、大石のコト大好きな俺がいて・・・
それだけで幸せになれたんだ。
ううん。幸せだったんだ・・・

『愛』なんて分かんないから、どうでもいい。

あの大好きな手が、俺の髪で遊ぶ。
そんな感じだけで良かったんだ。

一番だったら、それ以上の幸せって無かった。

こんな・・・泣きたくなるような幸せいらなかった。


嘘じゃないよ?


もし生まれ変わっても俺は俺で、大石も大石で・・・

二人で何かしようよ。

テニスじゃなくてもいいから。


まだ、ずっと先のコトだけど。


そしたら、きっと永遠に幸せだよ。


イヤなコトは全部無くそうね。


最高に幸せになれたら・・・永遠にそれ繰り返そうね。


ダメかなぁ?


無理かなぁ?




 明日から冬休み。勿論今日はクリスマスイブ。でも部活はある。
 耳がキンと空気のせいで痛くなるから、外を歩くときは手袋をした掌で庇いながらテクテク。
 そんな普通の日だった。



「あれ?乾だけ?大石まだ来てないんだ」
 今までもよくあった偶然。いくら人数が多い部でも、二年もいれば何度か出会った偶然。
「今竜崎先生に呼ばれて出ていったな」
「マジ?つまんねぇの」
 机の上で行儀悪く足をバタバタ。でも大石以外でソレを見てくれる人なんていない。せいぜい不二かな?少なくとも今横にいる奴が興味なんか持つ筈無かった。
「菊丸。静かにしてくれないか?もう少しで統計が出るんだ」
 何やらパソコンと睨めっこ。大石いないし、つまんない。
「何?何?何の統計?対戦相手?俺にも見せてよ」
 大石より大きめの背中にのしかかって画面を見つめる。そこには理解できない数値やらが並んでて頭が痛くなった。
「菊丸・・・重い」
「図体でかいんだからガマン!」
 見慣れない画面を触って見たくて手を伸ばしたら、はたかれて不機嫌が腹の辺りでグルグル唸り出す。
「何だよぉ、乾のケチ。あーあ。大石まだかなぁ・・・」
 大石いないからテンションの高さは半分。乾の背に乗っかったままドアを眺めても、あの困ったような笑顔が顔を覗かせない。
「ヒマ・・・」
 おんぶバッタのように乾の背にだらしなく身体を預ける。後頭部に隠れて見えない位置で、眼鏡をずらす音が聞こえた。
 大石には無い音・・・
「そんなにヒマなら、ちょっと付き合ってもらおうか」
「なになに?」
 声に合わせて、小刻みに揺れる背中がくすぐったくて、少しご機嫌。
「簡単なコトさ」
 そう言った乾の声は何だか上擦ってて、変な気分。どんな表情して話してんのか気になって覗き込んでみた。
「え?!うわっ!!」
 そのまま机に背中から叩きつけられた。息できないし、最悪。
「何すんだよ!痛いだろ!!」
 眼鏡のレンズの向こう。どんな表情してるかなんて知ったこっちゃない。
 でもコレだけは覚えてる。



笑ってやがった



 次に、まともに意識がハッキリしたのは・・・大石がいつもより遅れて部室のドアを開けた時。


 最低だったな、アレ。
 大石が見てんだから腰動かすの止めてくれればよかったのに。

 つうか、何でその状況でイケるかが分かんないよね。肝据わってるよアイツ。

 顔面真っ青の大石と蒼白の俺の目が合って、やっと解放された。





それだけだよ南。
本当に、ロクな思い出じゃないよね・・・



−哀史−END

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