6:雨のち雨 [ 4/51 ]

 内臓が、腐っていくような感覚だった。
 それでも笑う自分を嘲笑うことでごまかした。
それだけだった。

 憎しみを持ってないと………バラバラになりそうで。




 冬休みとはいえ、部活はある。
 例外はない。
−なんで、平気なんだろ?
 部室に入り、辺りを見回す。
−何ともないや。
 大石は手塚と共に顧問に呼び出されている。
忌ま忌ましいはずの場所。
 しかし心は動かない。

「傷つけることができたとか思ってるわけ?」

 背後の気配に声をかける。

「まるで動物だな」

 侮蔑とも取れる返答。
「なるほどねー」
 机上に放置されていたカッターが視界に入る。
チキチキという金属音と共に鋭利な刃物を完成させて柄を握りしめた。
「手首を切る。なんてオーソドックスな真似は勘弁してほしいんだがな」
−バカか。
「その意見には賛成だね」
 素早く振り返り、ろくに的を確認せずに直線的にカッターを投げる。
「あはは!んなことするわけねーだろ」
「………」
「大石が悲しむ。だからバカなことはしない。お前に報復も考えてない。ただ……」

『…英二』

「大石の前で俺に近づくな」

−だから泣かない。

 怖くもない。


「お前ごときに、俺をどうにかできるわけないだろ」
 外へ続く扉へと向かう。早く出なければ大石が戻ってきてしまう。
 けれど逃げるように走りたくはない。
 いつもと変わらない速度。けれど心は急く。
「なぁ、英二?」
 笑うような声が背中をざわつかせた。
「うるさい」
「…………っ」
「何がおかしい?」
 扉を開けながら問う。


「何故そんなにも大石を恐れる?」


 外は肌を刺す冷たい風と霧雨。
−一回……やんでたのに、雨。
 曖昧な水滴がカンに障った。


 ねぇ秀一郎。
 俺はね………恐くなかった。
 乾も、あの日を思い出すことも、身体が汚れたことも。
 俺は………
 俺が怖かったのは一つだけ。
 大石に嫌われることじゃなくてね。
 もっと違うこと。よく似てるかもしんないけど………違うこと。

「おーいし」
 手塚と共に歩いてくる大石に駆け寄る。
「英二。練習行こうか」
「うん。あ、そうだ手塚」
「なんだ?」
「乾が部室で待ってるよ」
「「?!」」
「お前を。じゃ、大石は連れていくから」
 声をあげて笑い、コートへ足早に向かう。慌てて追ってくる大石の足音が忙しない。
「英二!」

『何故そんなにも大石を恐れる?』

「入れ違っただけだよ」
−きっと……バレてる。
「あれ?知りたいの違った?」
 大石は見かけ以上に聡い。
「違わないよ。じゃ、行こうか」

−ゴメンね……


 ねぇ大石。
 俺はね、今でも時々思うんだ。
 どうして、あの日………
 俺を大石の世界に閉じ込めてくれなかったの?





雨のち雨−END−

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