4:snow pupetto [ 6/51 ]

 空から雪だるまが大勢降ってきた。
 指先サイズの雪だるま。
「ほらほら、雪だるま!」
 って兄ちゃんに見せたけど笑われた。
「それは、雹だよ」
 二つ手にとって小さな雪だるまを作った。
 落ちてきた雪だるまの欠片を、元の形にしてあげた。
 いっぱい作って窓に並べた。
 だけど何だか変な気分。
 一人を家の中に連れてって、ストーブの上のヤカンに乗せてみたら、みるみるうちに溶けてって・・・
 小さな空気の玉が雪だるまが溶けた水の中に浮かんできた。
−氷みたい。
 そう思ったけど、あったかいのに何で氷なんだろう?って変な気分。
 哀しくなって泣いてたら、姉ちゃんが笑ってた。
「来年また会えるから」
 って慰めてくれた。
 けどさ、同じ雪には・・・もう会えないよ。
『雪』ってのが同じだけだよ。
 そう思ったけど言えなかった。

 アレは・・・きっと俺の未来の姿だったんだね。
 今、あの時見た未来の姿なんだ。
 今の俺は、あの時の雪だるまだ。

 だってそうでしょ?
『菊丸英二』ってのが同じだけ。
 もう、昔の菊丸英二には会えない。




 俺も・・・春になったら溶けないかな・・・







 今年最初の雪だった。
「大石。降ってるよ」
 風に揺れるコトなく地面に落ちる結晶。
 風の無い日の雪。なんと静かなコトか。
 一番静かな天候。
「キレイだね」
 大石は緩やかな笑みをたたえ、飽きる様子もなく窓の外を眺める恋人に腕を伸ばした。
「おいで、英二。窓際は冷える」
 菊丸は刹那的に空白の表情を浮かべてから微笑み、恋人の手は取らずに隣に座る。肩が触れない、それと同時に呼吸も触れない位置へ。
 大石は空に遊ばせていた手を引き、恋人の頬に触れようかと迷ったが、止めてしまった。
「ねー大石」
 菊丸は昨日のコトが嘘だったかのように笑う。
「雪に擬音ってなんであるんだろうね?シンシンとかトウトウとか。音なんてしないのに」


 抱き締めてしまえば、泣くだろうかとも思う。
「人間は・・・『最初』になりたがるならじゃないか?」
「最初?」
「そう。最初に飛行機を発明。とか・・・そういうノリ。人間は名前をつけたりとか、誰もしてないコトを自分がしたってのを求めるからさ、だから誰かが皆が知らない言葉を作りたくて雪に音をつけたんだよ」
 菊丸は感心したように何度も頷いて・・・また笑った。
「じゃあ、俺は大石の『最初』だね。誰も真似できない。最初に付き合って、最初にキスして」


 ・・・貴方だけは汚させない。


「最初にSEXした」
「英二・・・」


−良かった。


 この人を好きで良かった。
 この人に好かれる自分で良かった。
 心からそう思う。


「大石。俺・・・今は俺に触らないで」
 絞り出すような声音。大石は静かに視線を伏せた。
「理由を・・・・・・聞かせてくれないか?」




 僕は君を繋ぎ止めたくて身体を渡さなかった。
 けれども君は僕を引き留める為に身体を欲しがった。


 ほんとはね、ちっとも恐くなかったんだよ。



「こういうのに抵抗ができた。って言ったら大石は俺を捨てる?」
「いいや。待つよ」
「ありがとう。大石好き。少しずつ俺を慣らしていって」
「あぁ・・・」





 大きな大きな・・・それでいて透明な嘘をついた。
 きっと大石には分からない。

 今は本当になっているから・・・



-snow pupetto-END

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