3:星屑 [ 7/51 ]

 一番ぼーしー見ぃーつけた。




「大石。流れ星」
「え?」
 東京の空は星が見にくい。それでも、十数年この都会で生きてきた二人にとっては当たり前の風景だった。
「英二。何処だ?」

 塵となった星。

「もう見えないよん」
 紅いマフラーが夜風に揺れた。派手すぎる程、鮮明な紅のソレは菊丸によく似合っていたが、時折大石の目には痛い。紅すぎるのだ。

『テレビで昔見た正義のヒーローは赤いマフラーしてたんだ』

 いつだったか、菊丸はそう笑っていた。
「俺も見たかったな」
「流れ星?」
「いや、英二と同じモノを」
 せめて視界ぐらいは分かち合いたい。
 けれど完全に同じモノを同じように見るコトは二人が個々の独立した存在であるかぎり不可能。
 考えなくても本能で何となく分かるコトだった。
−せめて・・・
 痛みを解り得ない分、同等の価値を意識するモノが欲しかった。
 些細で構わないから。
「へへ。じゃあ、今度見えたら速攻教える」
 子供のように笑う菊丸の足取りは心なしか先程より軽い。
 自己満足のような、成し遂げたような気分の中で大石は微笑んだ。
「英二」



「ん?」


「好きだよ」


「うん。俺も」


 菊丸が振り返る。風がマフラーを揺らす。外灯が紅を照らし、光を反射させた。
−あ・・・
 瞬間、色を無くした恋人の顔。鮮やかに光る紅。乱反射の中の翳り。
−やめてくれ。

 消さないで。

「大石!あそこ!!」
 空が指差された。思考が掻き消され、無心で空を見上げる。

 二つ並んだ流れ星。

−キレイだ・・・
 滅多とお目にかかれない情景に感嘆の声を零しそうになった。
「大石」
「どうした?」



「星が・・・死んでくよ」


 隕石が大気圏にぶつかり、発火しながら燃え朽ちてゆく。
 その様子をキレイだと思う自分。
 ソレを死にゆくと思う君。

 それが僕にはとても哀しいのです。



「英二・・・・」
「何?」


 置いていかれたようで、哀しいんです。


「触りたい。英二に触りたいんだ」

 同じモノを同じように見る。視覚する。
 ソコに見解の相違が付きまとい、異なった思考をもたらす。

 あぁ、きっと僕は・・・・

「ゴメンね。でも・・・・」

『君』になりたいんです。


「俺、ちゃんと大石好きだよ」


 そうすれば、君を識れる。
 解れる。

「知ってるよ。英二」


 同じモノを同じように見て、二人して『キレイだ』と思えて言えたら、それだけで救われるような気がした。

 君は柔らかく緩やかに拒絶し、振り解くコトさえしてくれない。

「秀、泣かないで」


 分厚い雲のような光化学スモッグの向こう。
 散りばめられた星達。
 またいつか、キレイだと二人して言える頃に流れてくれるだろうか?

−星屑−END

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