総長×不良 | ナノ

総長×不良
 

鈍く骨が折れた音が響いて、目の前の奴が泣き喚く。
「親友だったのに!最低だ!」
親友どころか、友人ですらない。関わりがあるとすれば、寮で同室というだけだ。
余計な過干渉をしてくる上に、色目を使ってくるのが気持ち悪くて、最近はずっと自他共に認める幼馴染兼親友の一人部屋に邪魔をしていたのだ。
殴り飛ばせばそれですむような気もしたが、身辺を騒がしくしすぎると余計なものが出てくる。それをできるだけ避けたかったのが・・・。
うだうだしているうちに、親友が自称親友の害虫に悩まされているのを知って、いい加減腹に据えかねて親友に害虫が纏わりついてたのを殴り飛ばしたのだ。
暴力で解決することに、親友はあまり良い顔をしなかったが話し合いで解決できるなら、風紀委員も出張っているのだからとっくに片が着いてしかるべきだという俺の言い分に最終的には頷いてくれた。
金持ち学校のせいか、家を持ち出してきやがる奴が多いが、俺はなりこそ不良だが実家はこの学校でも上から数えたほうが早い。
殴り飛ばす予定の害虫がいまだ無傷なのは、害虫が一人で居る事はまずない所為だ。
害虫に親友設定されている平凡呼ばわりされている生徒をそれとわからないように逃がして、残った取り巻きどもから殴ってやる。
久々に振るう暴力だが、外で売られる喧嘩のように気分は高揚しない。・・・弱いのを殴っても楽しくない。
害虫の取り巻きどもに動けなくなるように鳩尾へ重いのをキメて、残るは害虫だけだ。
「へぇ、知らなかった。お前、誡の親友だったの」
突然場の空気を変える声が響いて、視線をそちらに向ける。
いつの間に現れたのか。
いきなり登場した男に、思わず眉根が寄る。
生徒会業務で忙しいというのに、俺を助けようと現れてくれた親友に被害が及ばないよう、庇う形で僅かに後ろへ下がる。
「鼎、誡がひどいんだ!俺のこと殴ろうとするんだから最低だ!でも謝れば許してやってもいいぞ!俺は優しいからな!」
いわゆる美形が大好きな奴は、助けてもらえると思ったのか、嬉しげに鼎に話しかけながら、俺に喚き始める。
確かに、鼎は見た目は親友やあの害虫の取り巻きのように整っているだろう。口調も俺より幾らか柔らか味があるが、中身は悪魔も真っ青な鬼畜だ。
地獄の使者であっても、間違っても救世主ではない。
この辺で最強と名高いチームの総長である鼎に勝てる人間は、この学校内にはいないだろう。
だからこそ、あの害虫が嬉しそうに鼎に付きまとって、ぎゃんぎゃんと何か喚いている。だが、相手にされているようには間違っても見えない。
馬鹿だな、と哀れに思ったが、鼎がこちらに近づいてくるのに気がつく。つかまると厄介だ。
親友の腕を取って踵を返して距離を稼ぐ前に、腕をつかまれて嫌々振り返る。
「何逃げようとしてンの?」
口元に笑みは浮かんでいるが、目がまったく笑っていない。
大分お怒りらしい。面倒だ。
そもそも俺は、こいつが出てこないように立ち回っていたはずなんだが。
「何か用かよ」
「用があるに決まってるでしょ。そこの会長サマの他に親友作ったうえに、新しい親友ときゃっきゃと楽しそうにして、挙句会長様のとこに逃げ込むってどういうつもり?」
「俺の親友は大和だけだ。そこの害虫は知らねぇ」
ギリギリと掴まれた腕に力が篭められるのに、さすがに眉が寄る。
「鼎!俺を無視するなよ!それに、誡は大和と付き合ってるんだぞ!それに、他にもセフレ・・・がっぁ!」
ギャンギャンと鼎に喚く害虫を、鼎の傍にいた奴らが蹴り飛ばす。
「痛い!何するんだお前ら!俺は鼎の恋人で、理事長の甥なんだぞ!」
「・・・恋人、放って置いていいの。アンタ」
腕をつかんだまま睨み付けてくる鼎に、顎で害虫を指し示す。
「あ?」
「ほら、そこに転がってるだろ。大事にしてやんなくていいのかよ」
「何言ってンの。俺の恋人は、お前じゃん」
ぎりぎりと腕をつかんでいる手に力を篭められて、眉が寄る。
純粋に力比べ、となるとこの男には俺も勝てない。
「鼎!なんで誡になんか構ってるんだよ!」
「うるさいな。そこの害虫、連れてって。理事長は気にしなくていいから」
「わかりました」
鼎の指示に、傍に居た奴等が害虫を引きずってどこかに行く。
たぶん、チームの下っ端がたまり場にしている廃工場に連れて行くんだろう。この学校の生徒の多いチームのたまり場に連れて行かれて、リンチで済めば御の字だが・・・。
「鼎!」
害虫の叫び声を無視して、鼎が笑う。
「あのさ。お前に名前呼ばれたくねえワケ。俺のこと名前で呼ぶの許してるの、誡だけなんだわ」
鼎が顎をしゃくると、そのまま害虫の姿が見えなくなる。
掴まれていた腕から、拳を掴まれる。
「この拳で殴っていいいのは、俺だけって言っただろ?何であんなゴミ殴ってンの?」
そんな約束をした覚えはない。
「誰を殴ろうと、俺の勝手だろうが」
「うちのチームの副総長が相手にするだけの価値があるなら、総長の俺が傍にいるはずだろ?俺の知らないとこで、何勝手なことしてンの」
いつまでたっても腕をはなさない鼎に苛立って、蹴りを繰り出すがあっさりと受け止められる。それでも鈍い音がしたのに、大和の整った眉が顰められる。
「放せ」
「嫌だね。この拳もお前も、俺のモンでしょ」
べろりと舐められて、眉を顰める。
背筋に走ったのは、間違いなく悪寒だ。
「チッ・・・大和、そこに伸びてる奴等の処理があるだろうから、風紀呼んできてもらってもいいか?」
「ああ・・・。大丈夫か?」
大和の心配に、自然に口元が緩む。
「ああ。だから、頼む」
「わかった。・・・志波、誡に酷いことはしないでくれ」
「お節介は嫌われるぜ、会長様」
鼎の茶化しに、愁眉を寄せたまま、それでも大和が俺の頼みを聞いて校舎へと姿を消す。
「何で最初っから追っ払わなかったワケ?それに逃げ込むなら俺のとこでしょ」
ドスっと鈍い音をさせて、重い一発を腹に決められる。
「ぐっ・・・っぅ」
胃に直撃したソレに、思わず内容物を吐き出してしまう。
武闘派チームの総長を張るだけあって、鼎の拳は一発一発が相当なダメージになる。
周囲に広がる据えた匂いを気にすることなく、耳に舌を這わせながら鼎が囁く。
「俺に心配かけて楽しかった?誡」
「ゲホッ・・・ッ」
「チームの下っ端、つけてたの知ってただろ?何で伝言しねえの?」
捩じ込むような拳を鳩尾にくらって、意識が朦朧としてくる。
「かーい?答えらンねえの?」
ぐちゃりと嘔吐物にまみれた腔内を気にかけることなく、鼎が舌で弄ってくる。好き勝手に腔内を啜られるが、押しのけるどころか酸欠で体が震えてくる。
ただでさえ腹に決められたダメージで呼吸が苦しいところへのキスに、酸欠で朦朧とした意識にモヤがかかる。
「─・・・」
譫言のように唇を動かしたが、鼎に届いたかまで見届ける前にそれ以上意識が続かずに沈み込む。


「お前は、俺のモンなんだよ、誡」
鼎の言葉すら聞こえなかった。
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