小説 | ナノ


▽ 1




もう間もなく日付も変更するかという時間。
響は顔だけでなく身体のあちこちに傷を負って自宅へと帰って来た。

解錠して扉を開けると、廊下の一番奥にあるリビングに明かりが付いているのに気づく。
両親は響を置いて旅行に出かけたので、今夜は誰も居ない筈だったのだが、玄関を見れば一足の男物の靴がきちんと揃えられて置いてあった。

「お帰り、響」

玄関を上がってリビングへと行くと、ソファに座っている人物、蓮にそう声を掛けられた。

「……兄貴、来てたのか」

「あぁ。明日休みだし響の様子を見に来てくれって、おふくろがな。…ソレよりお前、また喧嘩したのか。手当てしてあげるから、此処に座って」

響の顔は口端が切れて、頬もぷっくりと腫れている状態。
蓮は眉尻を下げて苦笑じみた表情を向けると、おいで、と響を手招く。
8歳歳の離れた蓮には何かと可愛がって貰っていて、響は彼に滅法弱かった。
手当てなんていらないと突っぱねる事もせずにソファへとふらふらと近寄っていく。
蓮はソファに座った響と入れ違いに救急箱を取りに立ち上がる。

「あまり無茶をするなと言ったろう?…ちょっと染みるけど、我慢な」

「…ッ……好きで喧嘩してるんじゃねぇし。あっちが売ってくるのが悪い」

傷の手当をしてくれる蓮に窘められて、拗ねたような口調で返答してしまう。
そんな響に蓮は困った風に笑って頭を撫でた。
アッシュグレージュに染めた髪、両耳に開けられたピアス。制服はいつも着崩して、喧嘩も良くしているという、どう見ても不良である響であるが、元々不良になろうと思ってそういう格好にしたわけではない。
真面目な格好をしていた時も、目つきが悪いせいで睨んでいるだのと勝手に決め付けられて因縁を付けられていたのだ。
どうせ目つきが悪くて怖がられたり喧嘩を売られたりするのなら、と我慢の限界に達して今の格好にしたのが高校一年の春。
その時も連は仕方ないなというような表情で、困った風に笑って響の頭を撫でたのだった。

プッツンして見た目を不良と言われる部類にしたわけだが、両親が放任なのを良い事に帰宅時間も遅いし、喧嘩で怪我をして帰って来る、と今では見た目だけではなく立派な(?)不良なのである。

目つきが悪く、睨んでいなくてもそう取られてしまう響と違い、蓮は穏やかな雰囲気を纏った顔をしている。
端正な顔つきとその雰囲気で、セルフレームの眼鏡が良く似合っている。
二人が一緒に居ても直ぐに兄弟だと分かる人は居ないだろう。
それもその筈。二人は血の繋がった兄弟では無いのだから。

二人が始めて顔を合わせたのは、響が12歳、蓮が20歳の時である。
両親が再婚し兄弟となった二人は歳が離れすぎていて、あまり交流する事もないかと言えば、そうでは無かった。
何かと多忙な両親に代わって、大学生である蓮が中学生である響の面倒を見ていたのである。

響が高校生になると、もう大丈夫だという言葉もあって、蓮は家を出て会社に近い場所にマンションを借りて一人暮らしをしている。
たまにしか顔を合わせないけれど、響にとっては今でも蓮は頭の上がらない存在なのだった。

「…はい、お終い。喧嘩するのはしょうがないにしても、怪我はなるべくしないようにな」

「わーってるって。……サンキュ」

手当てをして貰うと用事は終わりとばかりに自分の部屋へと戻ろうとする響。
部屋を出ようとした後ろ姿に蓮の声が掛かる。

「響。明日暇なら一緒に街に行かないか。買い物に付き合って貰いたいんだけど。その後ついでに夕飯も食べよう」

「…それって、お誘いって言うより決定事項じゃねぇ?…まぁ、いいけど。暇だし。……じゃぁ、適当に起こして。寝てると思うし。オヤスミ」

「分かった。お休み」

肩越しに振り返って穏やかに笑う蓮へと声を掛けた後、自室へと戻って行った。





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