密室アクアリウム
(19)
「ずっと一緒にいようって、お前が言ったんだよ」
子どもの頃の、一時の幼い感情だったかもしれない。しかし、それを瞼の裏に見た時、再び犬飼と出会って、今、同じ時間を過ごしているのはきっと必然なのだと思った。
「一緒にいようって、最初に言ったのはお前だ」
「……仲宗根」
「お前は一人じゃねえ。俺が、ずっと傍にいる」
躊躇もせず、大河は犬飼の手を握った。そうすることで、少しでも安心して欲しいと思った。大河がそうだったように。
「子どもの頃にした約束、ちゃんと守ってやるよ」
腕をやや強引に引き、犬飼の頭を肩にのせる。ない筈の質量と温もりを感じた。互いの手はしっかりと結ばれたままだ。
「仲宗根」
「……何だよ」
「ありがとう」
低い振動が肩から伝わってくる。
「仲宗根にそんなことを言われるとは思ってなかった」
「俺だって、言うとは思ってなかったよ」
「でも言おうと思ったのは俺が先だ」
「あ?」
犬飼の手が、写真をソファに置いた。
「俺も、お前のことはしばらく忘れていた。でも高校で見つけて、思い出した」
「俺は全然気づかなかった」
「俺も最初は分からなかった。見た目がだいぶ変わってたから。けど名前が引っ掛かって、思い出した」
確かに、二人とも幼い頃とは容姿がまったく異なる。背丈も顔つきも、十年も経てば大きく変わってしまう。仲の良かった時期もほんの少しとなれば、外見だけで気付くのは到底不可能だ。。
「仲宗根はいつも一人だったな」
「好きで一人なんだよ」
「本当か?」
犬飼が上目使いに見上げる。真っ黒な瞳にすべて見透かされてしまいそうで、大河は僅かに目線を逸らした。
「俺にはそうは見えなかった」
「お前に分かるかよ」
「強がってるだけだ」
犬飼の頭が肩から離れる。重みと温もりが消えただけなのに、どうしてか追い縋りたくなるような不安がある。
「本当は寂しい。そう感じてる自分にも嫌気が差す」
犬飼の手の平が頬を包む。視線がかち合い、何か見えない力によって逸らすことができなくなった。
「気づいたら仲宗根を目で追ってた。お前は一人じゃない。俺がいる。いつか、そう言おうと思ってた」
顏が近くなったと思ったら、額同士がぶつかった。視界いっぱいが犬飼の顔で埋め尽くされる。深い黒色をした目の奥。最初は何を考えているのかまったくわからない、無の色だった。今なら分かる。
「犬飼……」
息を止めて唇を合わせた。
82/96 融解