密室アクアリウム

(23)

 とにかく中が熱くて仕方なかった。それが性的な疼きからくるものなのか、犬飼の雄から伝わってくるものなのか、思考をするための酸素を奪われた脳で無意識に考える。凶器が孔を強引に押し進める痛みに、思考は途中で打ち切られた。
 犬飼の動きがいったん止まり、背後で熱っぽい溜息が吐かれる。彼だって人間だった。人間には欲というものがある。けれどこの男が匂わせるような所作をすると酷く倒錯的に思えた。

「ひ……っ、は、あぁ…」
「全部入った」
「…っだ、まれ……!」

 痛くて、苦しくて、熱い。漏れ出そうになる情けない声の代わりに大河は獣のように低く唸った。ふー、ふー、と威嚇のようだった。
 これは現実なのだろうか。この男は今、本当にこんなことを? 何もかも疑いたくなる。実は夢なんじゃないか、自分が今、犬飼に後から貫かれていという状況は。ただの悪い夢なのではないか――犬飼を意識下で望むあまりに夢にまで見てしまっただけで。

「っく、ぅう…!」

 犬飼がその性器で、大河の中を弄り始めた。

「あ、…は……っ、はぁっ」

 腫れ物を扱うように優しい動きだが、苦しいことには変わりない。歯を食い縛っても意味はなく、気付けば荒い呼吸をしている。シーツを固く握り締めるが、そこで大河は気が付いた。人の手かという程に大きく腫れていた右手が、通常に戻っていることに。

「ぁあ……っ」

 中を穿つ雄の形が鮮明に伝わってくる。大河の腰を掴んだ犬飼が前後に身体を揺らす度に、硬くて熱いそれの凹凸が、血管の出っ張りやエラの張った部分までが、肉壁に包まれて摩擦を起こす。 
 もはや痛みはなかった。圧迫感さえも、犬飼が丁寧に動かしているせいか、徐々に和らいでしまう。寧ろ溶けるくらい熱い肉壁が、退く熱塊を逃すまいと絡みついているようにも感じて、大河は泣きたくなった。臀部の筋肉が引き攣る。

 犬飼が、腹側の壁を先端で擦った。

「ん、あぁ……!」
「……いいのか」
「ひ…ゃ、あ、ああ……んっ、い、嫌だ…っ」

 指で刺激された箇所だった。先程感じた不本意の快感はまだ覚えている。そこを指よりも太い性器で穿たれているのだから、溜まったものではない。腰の奥がむず痒い快感に襲われて、声を抑えるどころではなかった。

「はぁぁっ、う……あ、あ!」

 何だ、これは。ケツに突っ込まれて感じているなんて。有り得ない。おかしい。
 一番感じるところを何度も何度も抉られると、自分の口から情けない声が上がる。口を塞ぐ前に犬飼が再び突くから休む暇もなかった。吐息と悲鳴が混じった喘鳴と、身体がシーツに擦れる微かな音に混じって、自分の下肢から卑猥な水音が聞こえてくる。中にある犬飼の先走りが、慣らしただけでは足りない内壁の滑りを良くしていた。

「ぅウ…あ…っ」
「……っ」

 背中から覆い被さる男の、詰めた吐息。この行為で性感を得ているのは大河だけでないことが、何故か不思議だった。死んで人ではないものになっても、感覚は人間と変わらないのか。それとも自分の意思でどうこうできるのか。そんなことに興味はないが、犬飼が大河の後孔で確かに呻き声を上げているのは確かだった。

「ふ、ぅ……う、あぁっ、あ」

 犬飼が揺さ振る度に、シーツに押し付けた頬が擦れ、半開きになった口から涎が零れる。今の恥も外聞もない姿を、過去の自分が見たら何と言うだろう。頭に血を上らせて罵倒するだろうか。それに対して今の大河が弁解する余地はない。大きな熱に浮かされて、今は快感を追うことしか出来ない。
 燻って溜まりに溜まった熱を、早く解放したい。そう思った途端、犬飼の手が下肢に回り、反り返ってシーツに押し付けられている性器を握り込んだ。

「っん……!」

 先端から溢れ出る液が、犬飼の手やシーツを濡らす。極限まで膨張しきったそれを扱くと、ぐちゅぐちゅと淫猥な音が聴覚までを犯していく。後孔の粘膜と犬飼の性器をがなす水音と混じり合って、頭がどうにかなりそうだった。

「く……ぅ、ん…っ」
「っ、……どうしたい」
「……は、ぁ…っい、きて……んっ」

 中を穿つ角度が変わり、より深く届くようになった。ぎりぎりまで引き抜き、前立腺を圧迫しながら最奥まで太いものが貫く。それだけで、意識が飛んでしまいそうなくらい気持ち良かった。
 手の動きが徐々に激しいものに変わり、大河に追い打ちをかける。親指の腹で先端をぐりぐりと弄られ、終いには爪で引っ掻かれた。尿道の内側の粘膜が悲鳴を上げた時、奥底から震えるほどの衝動が突き抜け、性器がびくびくと痙攣しながら精液を吐き出した。

「――ッ」

 声もなく、大河はただ息を呑んだ。
 同時に後を絞めつけてしまったようで、犬飼が低く呻いた。射精の間にも数度、奥まで貫かれ、身体がビクビクと跳ねる。中に埋まったものが震え、同じように絶頂に達したのだと分かった。

「は、…っはぁ、は……っ」

 ぐったりと身体が弛緩して、荒い息を繰り返す。ぐぷ、と音を立てながら後孔に埋まっていたものが引き抜かれ、粘着質な液体が零れ落ち内股を伝うのが分かった。それさえも、唐突に訪れた強烈な睡魔によってじきにうやむやになってしまう。

「……大河」

 心地よい低音が、するりと聴覚に入り込んでくる。反応する間もなく瞼がゆっくりと閉じ、大河は眠りへと引き摺りこまれていった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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