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3.ついて行くだけ


 とある晴れた日の放課後、である。終業のチャイムと教師の終わりの言葉と同時に、クラスの男の子の半分くらいがバタバタと教室を出て行った。セオも鞄にテキストと筆記用具を詰め、帰る準備をする。今日の夕飯当番はセオだ。父の帰りが遅いので、作って待っておかないといけない。何を作ろうか、セオの好物は大体父の好物でもあるので、何を作っても文句はない。だからなにか自分の好物を作ろうと思う。
 帰りにマーケットへ寄る事を考えながら、上機嫌で校門を出る。と、そこに、見覚えのある人影が。

「やあセオ、帰るところかい?」
「ディオくん。」

 ふわふわの金髪、切れ長の目、ディオ・ブランドーだ。壁に寄りかかって、誰かを待っているように見える。彼はセオを見つけると品の良い笑顔を浮かべた。

「わたしは帰るところ。ディオくんは誰か待ってるの?」
「特にそういうわけじゃあないが、一緒に帰る奴を探してたんだ。」
「そっか、それじゃあわたしは帰る、・・・ね・・・?」
「一緒に帰るか?」

 去ろうとした、のだが、肩をディオに掴まれる。そして予想に反したお誘い。セオは吃驚した、まさか一度顔を合わせただけの自分を誘うとは思わなかった。誰か適当な人を探しているのなら、一応顔を合わせた事があるセオでも適当なのだろうが吃驚した。

「いいけど、わたしの家とディオくんの家は逆方向だよ。それに今から買い物に寄るし・・・。」
「じゃあ買い物について行かせてくれよ。」

 セオは疑問に思う。どうして一度会っただけのディオが、自分の買い物について来てまで一緒に帰ろうというのか。返事を少し躊躇って考える。多分、彼が一緒に住んでいるジョナサンと仲の良い人なので、興味がある、とそういうことだろうか。断る理由もなく、セオもジョナサンと暮らすディオというニューフェイスが気になるので、いいよ、と返事をした。
 セオの行きつけのマーケットは、学校と家との丁度真ん中くらいにある。気の良い夫婦がやっている店で、広い店内には肉から穀物から欲しい物は大体揃っている。

「夕食は君が作るのかい?」
「ええ、お父さんと交代で。」
「母親は?」
「流行り病で亡くしてるの。」
「・・・そうか、悪い。」
「いいのよ。」

 ディオは申し訳なさそうに謝ったが、セオはそんなに気にしていない。それよりも頭の中は今晩の献立だ。トマトソースとマッシュポテトを作って、牛肉を焼いてレタスとパンを添えよう。あとはコンソメスープを作れば良さそうだ。そうとなればじゃがいもと牛肉とレタスが必要だ。店内をうろうろして目当てのものを探す。ディオはそれに文字通りついて歩く。
 彼はずっと考えていた、セオに付け入るための策を。そしてそれを利用してジョナサンから彼女を引き離すことができないかを。今回はそれを探すためにセオの買い物についてきた。ジョナサンと特に仲が良い彼女は、ちょっとした悪い噂話や誤解くらいでは、ジョナサンと引き離すことができないだろう。

「そういえば・・・ジョースター卿も夫人を亡くしたと言っていたな。」
「そう、ジョナサンもお母さんがいないの。2人とも母親が居ないからかな、気があって小さい頃からよく遊んでいたのは。」
「へえ。ぼくも母親をなくしていてな・・・ついこの間親父も。」
「だからジョージさんの所に来たのね。」

 良いことを聞いた、とディオは思う。親を亡くしている境遇が自分とセオには共通している。ジョナサンとの仲もそれを機に深まったそうなので、これは使えるかもしれない。

「セオのお父さんはどんな人なんだい?ぼくのは・・・酒飲みで酷い奴だったよ。」
「ディオくん、大変だったのね・・・。わたしのお父さんは素敵な人だよ、わたしを育てるために一生懸命働いてくれていて。自分の楽しみも削って家を支えていてくれるの。」
「へえ・・・。」

 ディオは少しムッとする。セオの父親が、あまりにも人間らしい良い人のように語られたからだ。そして自分よりも恵まれた境遇のセオにも良い気分がしなかった。それでも彼女の話を無視はできないので、良い人なんだな、とだけ言っておいた。そしてそう言われて照れるセオを見て、単純だと思う。
 セオは目当ての物を買い揃え、新聞紙に包んで鞄に仕舞った。

「ただの買い物に付き合ってもらってごめんね。」
「ぼくが勝手についてきたんだ。」

 色々と収穫があった。セオの親や、彼女の大まかな性格など。性格と言っても、普通の女の子とあまり変わったところはないが、片親がいない分、同い年の子供よりも大人びているというくらい。賢明な大人のような考え方ができるのであれば、彼女は難攻不落になってしまいそうだ。

「もし君が良かったらなんだけど、これからも仲良くしてくれないか?」
「え?もちろんよ。よろしくねディオくん。」

 だから、こっちから彼女の心の中にずかずかと踏み込んでいく事にする。ゆっくりと歩み寄っていったり、物や言葉で心を掴んだりでは足りない。セオは優しいから、近づいてくる人や頼ってくる人を拒否することはしないだろう。

「君は優しいんだな。」
「そうかな、ありがとう。」

 褒められて素直に喜ぶセオ。にへらと笑うその顔は年相応に見えた。






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