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6.ほのかな闘争心
結局ディエゴとは5日前に別れ、セオはまたラームと二人で旅を続けていた。今日はこの調子でいくとあと少しでゴールが見える頃だ。旅は順調、ラームも特別不調といったところはなく、毎日大体80kmちょっとを走っている。
「見えてきたね、ラーム。」
地平線に、ゴールが見えてくる。同時に前を走る選手の背中も見えた。全体的に赤い身なり、ホット・パンツ選手だ。彼を追い越す前にゴールについてしまうくらいの間が空いている、ほぼ不可能だろう。それでも彼の背中を目標にしてスピードをあげよう。セオは鞭を入れた、ラームはそれに反応してスピードを上げる。
観客の声が耳に入る。セオの名前をコールする集団もいた、もしかしたらファンでも出来たかな、なんて思って、セオは頬を少し緩ませた。
ホット・パンツとの距離は段々と縮まっていく、しかしそれよりも速くゴールに到着してしまった。彼と1馬身空けてのゴール、セオは6位に滑り込んだ。
「……おしかった。」
セオは下唇を咬んだ、目の前に追い抜けそうな姿があったのに間に合わなかった。もったいないことをしたと後悔した。
ずっと向こうに先に行った選手たちの背中が見え、段々と小さくなっていったが、セオは一度止まる。大会の運営から水筒に水を満タンに入れてもらい、次の町までの食糧を分けてもらった。ラームにも昼食をとらせ、彼の分の干し草も補給する。ゴール目がけて爆走したので、普段よりちょっと疲れた。
「セオ・フロレアール選手、どうぞ。栄養満点のミックスジュースです。」
「ありがとう。」
久しぶりの甘いものに喉が喜ぶ。ごくごくと勢いよく飲み干すと、ほのかな幸福感が身体を満たした。
「オレにもそれをくれないか。」
「はいどうぞ、ホット・パンツ選手。」
「む。」
セオの横で飲み物を受け取ったのは、さっきまで背中を追いかけていたホット・パンツだった。セオが軽く会釈すると、彼も口角を少しだけあげて頭を下げてくれた。
「ホット・パンツ選手、ぎりぎり貴方を追い抜くことができませんでした。」
「……ということは君はセオ・フロレアールか。」
「ええ、はじめまして。」
「後ろからずっと殺気を感じていた、恐ろしかったよ。」
「そんなにですか!?すいません無意識でした。」
ホット・パンツに気づかれるほどの殺気を放っていたのかと自分が恐ろしくなる。そんなに闘争心むき出しになっていたのだろうかと不安になる、勝利に執着がある方ではなかったのだが……これは良い変化なのだろうか。
準備も整ったので、ホット・パンツに別れを告げ、セオは再びラームを走らせた。まだ今日は進める元気があるし、日は高い。もっと先に進みたい、と、セオは心を躍らせた。