trance | ナノ



5.早かった再会


 9月26日 9:55 セオは自分のスターティング・グリッド内に立った。2nd STAGEが始まる。

「今回から野宿つきの旅になるね……ラーム、頑張ろう。」

 さてどのルートを進もうか。砂漠を通過すればゴールは速い、しかし危険である。出来るだけ給水地点を多く通ることが出来るルートで進もうとセオは思う。
 既にリタイアした人は出ていると聞くが、見た感じの人数はあまり変わったように見えない。この中の何人が丁寧に給水ポイントを沿って走るだろうか、やはり多いだろう。

 花火発射の準備がされる、スタートまであと30秒とない――花火が打ちあがった。
 セオはラームの名前を大声で読んだ。ラームは前足を高くあげて走りだす。さっそく群れから飛び出す馬が居た。それが誰なのか、今日のセオには分かる、昨日1位でゴールをするもペナルティで順位を落とされたジャイロ・ツェペリだ。そしてその後ろに続くのはジョニィ・ジョースター……あとは知らない。彼らは給水ポイントを無視するらしい。その姿にセオは少し動揺したが、自分の行くルートは変えない。

「いいよねラーム!わたしはあなたの身を大事にした走りをするよ。」





 無事に目的の給水ポイントをなぞり、そこから30kmは進んだ。合わせて80kmは行ったと思う。ラームも大分つかれたようなので今日はここで休もう。日は既に沈んでいる。ランタンの灯りのみで心もとない足場を、セオはラームを引きながら歩く。ぼんやりと向こうに岩場が見えた、幸い先客はいないようだ。
 ラームから荷物を下ろし、テントを立てる用意をする。ポールを立て、幕をたらし、その先をペグで打つ。体全部を収めるためには腰と膝を曲げないといけないくらいの小さなテントだ。
 大岩の周囲にはぽつぽつと枯木が落ちている。薪を集めて一晩過ごすには十分だろう。ラームをテントの近くに座らせ、セオは大岩の周りを一周する。戻ってくる時には両手いっぱいの木が集まった。木を山積み、ランタンの火を移す。チクチクと音を立てて木が燃え始めたので安心した。

「……?」

 火の向こうに、人と馬の影が見える。セオの背中がひやりとした。彼女は毛布をかぶり、鼻から下を隠した。そして腰からナイフを抜き、背中にかくす。

「誰だ?」

 男の声。砂を踏みしめ、じわじわと近づいてくる足音、段々と火にあたって見える顔……

「ディエゴさん!」
「……セオか?」
「はい。」

 よくはち合わせるなあ、と思ったのはお互い様らしく、同じようにはにかんだ。

「もっと先にいるのかと思ってました。」
「コースが違ってここでクロスしたんだろうな。この広い砂漠で出会えるなんて運命のように感じるよ。」
「本当、びっくりですね。」

 聞けばディエゴも野営できる場所を探していたとのこと。大会参加者の中では一番見知った人なので、セオは一緒でも構わないと言った。男女が近くで、とも一瞬考えたが、宿屋で隣同士の部屋に入るのとさして変わらないだろう。
 干し肉をあぶって食べようと思っていたところに、ディエゴが固形コンソメを持っていると言ったので、肉しか入っていないコンソメスープを作ることにした。セオが鍋を見ている間、ディエゴは自分のテントを立てた。セオのテントから、焚火を挟んで3mほど空けた場所にディエゴのそれが立つ。彼のパーソナルスペースはこれぐらいだろうかとセオは思った。

「スープ出来ましたよ。」
「ありがとう、悪いな俺の分まで。」
「お互い様です。」

 ディエゴのコップを受け取り、コンソメスープを注ぐ。次にセオも自分の分をとって、味よりも栄養を意識した美味しくないパンと並べた。余計なものの入っていないパンはかなり固いので、スープに浸して口に運ぶ。この状況では味やら歯ごたえやらは問題ではない。栄養が取れたらそれでいい。外での寝食については、探検家な教授に連れられて行った『インディ・ジョーンズ』に慣れているから、そんなにためらいは無い。

「なあセオ、君、どこかでオレに会ったことがないか?」

 突然、ディエゴが奇妙な質問をした。どこかで、と言われると、父と一緒にインタビューをしにいった一度きりだが、それは昨日会ったときに話をして思い出したはず。

「父と一緒に行った時……でしょうか。」
「いいや、それ以前に……。」
「覚えていないです、ありましたっけ?」

 首をかしげるセオ、そんな彼女の目を、まっすぐじっと見つめるディエゴ。視線を逸らそうとしない彼の強い眼光に、セオは思わず頬を赤くしてしまった。

「あ、の、照れるん……ですが……。」
「はは、可愛いな。にしてもやっぱりどこかで会ったことがある気がする。いや、決してナンパじゃあないぜ。」
「うーん……。」

 返事に困ってしまう。ディエゴはまだ笑いながら、困らせてごめんなと楽しそうに謝り、食器を片づけ始めた。セオも食器の汚れを軽く洗い流し、乾かすためにひっくり返して放置。ディエゴから離れようと、そそくさとラームの手入れに移った。




 次の日の朝、である。テントの隙間から日の光が差し込んで、それが丁度セオの目に当たる。毛布を剥いでテントから這い出る。すぐ横には、既に目を覚ましていて、足元にいるトカゲと遊んでいるラームが居た。ディエゴはまだらしい、シルバーバレットも同じように起きているが、・・・ディエゴのテントから彼の脚が片方はみ出ている。
 昨日残しておいたスープを朝ごはんにしよう。セオは残った枯木に火をつけ、鍋の中身を温める。今日も暑い一日になるだろうから、朝からアツアツの物は良くない、沸騰手前で火からおろし、自分のコップに移す。ラームには干し草をあげるのを忘れない。
 スープをすすっていると、視界のはじっこでディエゴの脚が動くのが見えた。セオに遅れること30分、起床したようだ。

「おはようございます。」
「……おはよう、セオ。」
「スープ温めてあるのでどうぞ。」
「ありがとう。」

 ディエゴは地図を地面に広げ、道を確認しながら食器に手を伸ばした。彼はどの道を行くのだろうか。セオは自分たちに行けそうなルートであればついて行きたかった。ラームが居るとはいえ不安な砂漠越え、ここでディエゴと行動が一緒にできれば心強い。

「きみはここからどう進むんだ?」
「わたしですか?このまま北東に真っ直ぐ、ゴールを目指します。給水ポイントも間にいくつか挟んでますし。」
「そうか……うん、オレもそうしよう。セオ、一緒に行ってもいいか?」
「え!一緒に!いいんですか!」

 セオはぱっと笑顔になる。願ってもないことだ、ディエゴから誘ってもらえるなんて。返事はもちろんOKだ。途中でそれぞれ進みたいルートが分かれるだろうから、そこまでは行動を共にしようと言うことで話はまとまった。





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -