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P.M.4:00 CIA本部 ラウンジにて

「セオ・アルマーズ君だね?」

 売店で紅茶を買っていたセオに、背後から声がかけられた。聞き覚えのないおじさんの声だ。

「はい?」

 振り返る、そこには恰幅の良い男性が立っていて、彼もまた湯気の立つ紅茶を手にしていた。

「ここでは初めまして、だな。私はデイビット・オウ……ゼロ少佐とも名乗っている。」
「ゼロ少佐……。」
「君はグラーニニ・ゴルキーの研究所でスネークと遭遇した時に、無線越しに声を聞いているかと思ったが。」
「グラーニニ・ゴルキー……ああ!」

 はっと思い出した。研究所で初めてスネークに遭遇した時、彼が無線でセオのことを聞いていた相手だ。スネークが装着していたのはイヤフォンタイプの無線だったので、セオ自身は声を聞いていない。

「初めまして……ではないですね、セオ・アルマーズです。改めてよろしくお願いいたします。」
「あの時は知らんぷりをして悪かったな。」
「……わたしのことをご存知だったので?」
「もちろん。」

 ゼロ少佐は近くの椅子を引いて、セオに座るよう促した。セオはありがとうございます、と、言って腰掛ける。

「君の父上や、核対策部から聞いていた。まあ、本当のことをスネークに言ってしまっては、お互いにもっと危険な目にあっていたかもしれないしな。彼を幾度も助けてくれてありがとう。」
「いえ、任務ですから。それにわたしこそ助けられました。」

 にこ、と、笑顔を浮かべるゼロ少佐につられて、セオも笑顔になる。

「ところでセオ、CIAの試験をうけるんだって?」
「は、はい。」

 いきなり試験のことを振られて、セオは急いで背筋を伸ばした。まさかゼロ少佐も知っているとは思わなかった。そう、セオはCIAに入ることにしたのだ、正確に言えば今回の働きが評価されてスカウトされたのだ。しかし彼女は真面目にも、きちんと採用の手順を踏みたいと言った。モスクワ時代に経験したのだ、ぽっとでの女が正規の手順を踏まずに偉くなると、周りの非難が激しいと。

「知識も体力も技術もある君のことだ、すぐ一緒に働けるだろう。」
「ありがとうございます。」

 もちろん、CIA側は入れる気満々であろうから、形式上の試験になりそうである。

「そういえば、スネークは今どちらに?アメリカに戻ってから会えていなくて。改めてお礼がしたいのですが。」
「彼か……。」

 にわかにゼロ少佐の表情が曇った。スネークに何かあったのだろうか。

「今日は本部に来ている。その気があれば会える。」
「会いたいです!」
「じゃあ、行くか。」





 CIA本部、室内射撃訓練所、である。
 新人らしい隊員に、先輩らしい隊員が指導を施している他はガラ空きだ。ネイキッド・スネークは控えのスペースで独りタバコをふかしていた。

「スネーク!」

 そこに若い女性の声。ついこの間まで一緒だったのに、遠い昔の記憶の人であるかのように錯覚する……セオだ。

「セオか、久しぶりだな。」
「お久しぶりです……でもないですね?例の件では本当にお世話になりました。」

 スネークはそばにあった灰皿で葉巻の日を消し、そんな大袈裟にするな、と、胸の前で手を振った。大袈裟なんてそんな、セオにとっては本当に命の恩人なのだ、感謝してもしきれないというのに。

「俺こそ世話になったよ、グロズニィグラードでは特にな。あんたのおかげで動きやすかった。」
「これからもなにかお困りでしたら言ってください、暗号と通信は大の得意です。この秋からはCIAの職員になる予定ですし。」
「……CIAの?」
「ええ。」

 ハチマキをしていないスネークの眉間に、一瞬だけシワが寄ったのを、セオは見逃さなかった。おめでとう、と言ってくれないのはなぜだろう、セオは胸に一抹の不安を抱く。先ほどのゼロ少佐といい、なぜこのように気になる反応をするのだ。

「今回のことで実力を認めてもらえたんです。9月末に特別試験を行ってもらえることになりました。」
「そうか。……まあ、なにかあった時にはよろしく。」
「はいっ、なにもないことを祈りながら。」
「それもそうだな。」

 スネークは大きく伸びをする。肩の骨がぽきぽきと音を立てていた。

「夕飯、これからだろ?一緒にどうだ。」
「え!いいんですか!」

 セオが食い気味に、飛びつくように返事をすると、スネークは愉快そうに笑ってくれた。彼はグラスを傾けるふりをして、赤ワインが飲みたいんだ、と言う。
 時計を見る、いつの間にか6時を過ぎていた。射撃訓練の2人も切り上げて、拳銃を片付けていた。

「なにかが無くてもたまには付き合ってくれよ。せっかく知り合えたんだからな。」
「もちろんですっ!」

 のったりとした足取りで訓練所を後にするスネーク。セオはその後ろをルンルンでついていった。






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