trance | ナノ



[ pragmatic / elysium ] spot ... 1 5 .



A.M.10:00 我が麗しの故郷 ワシントンD.C. にて


 雪の降るあの土地から、真夏のアメリカへ。
 所属団体にシャゴホッド破壊の報告を入れたのはもう1週間も前になる。偉大なことを成し遂げた、と、両親にも職員にもたくさん褒めてもらえた。
 もちろん直接手を下したのはスネークである、それを伝えたが、共闘したお前はすごいのだ、と、盛り上がりは収まらなかった。

 スネークはCIAよりなにかの名誉を与えられたようで、先日その様子を自団体の代表より教えてもらえた。彼はアメリカの英雄になったのだろう。
 EVAについてはなにも情報がない。元々どこの命令で動いていたかも、何が目的だったかも教えてもらっていない。アメリカのどこかには居るはずだ、その程度の認識に留まっている。

そしてもう1人、注視するべき人物がいる。
 CIA本部、その廊下。書類を届ける用事があってやってきたここで、まず再会はあり得ないと思っていた人に会った。こう言ってしまえば該当するのは1人……オセロット、である。

「まさか……あなたがここにいるとは思わなかった。」
「また今度、と言ったでしょう。」
「……知っていたの?」
「あなたが正体をばらしてくれた時からですが。」
「ではわたしたちはどちらも同じ国の出身で、似たような場所からのスパイだったわけなの。」
「そういうことです。」
「言ってくれたら良かったのに!」
「言えると思いますか?……ああ、ちなみにですが、ジョン……スネークには言わないでくださいね。私は色んなところでスパイ活動をしていますから。」
「ならこんなところにいていいの!?」

 オセロットはにやりと笑ってセオの腕を掴むと、直ぐそばにあった扉を開き、スルリと部屋に忍び込んだ。彼は後ろ手に扉を閉めて、ついでに鍵をかける。
 ここは書庫、いや、資料室のようだ。出入りしている施設とは言え中の構造に詳しくないセオは軽いパニックになる。それでも落ち着いて深呼吸をすれば、古臭い香りで鼻がいっぱいになって落ち着くことが……落ち着かない。

「わたしたち、お互いに潰しあってたってことなの。」
「結果的にそうなります、でも、言えないことでしたからね。目的も違いましたし。」
「知らなくて当然よね。」

 セオは書架に肩を押し付けられる。オセロットはやっとの思いでここまできた、と、感動のままにセオの頬にも頬擦りをした。まるでネコ科の動物だ。

「この間の約束、覚えてますか?」
「約束?」
「恋人にしてくれるって。」
「そこまで言ってない。」
「相変わらずつれない……。」
「お前は調子が良すぎるのだ!」

 思わず男口調になってしまう。オセロットとの会話はこの喋り方の方が自然なのでしかたない。あっ、と、慌てて口を手で塞ぐ。ずっとこの喋り方で通してきたとはいえ、セオにとってはあまり好きではない喋り方だ、もっと慈愛に満ちたイメージを自分につけたい。
 反省するようにうつむくセオの頭を、オセロットはヨシヨシと撫でた。セオはやめんかというように頭を振って止めさせる。

「……オセロットだって、わたしのことを敵だと思っていたんでしょう?」

 核心に触れることを言ってみよう。セオがソ連に身を置くオセロットを敵だと認識していたように、オセロットもまた、ソ連に身を置くセオを敵の一人と見ていたはずだ、そうなればこの男が本当に好意を寄せていたかどうかは謎だ。演技派の彼に騙されているということもなくはない。
 するとオセロットは悲しそうに眉を寄せる。ズキっとセオの胸が痛んだ。

「本気になってしまったから、困っていたんですよ。黙ったままそばに居続けるつもりでした。」
「それだったら一生わたしは振り向かなかっただろうね。」
「だから、よかったです、本当に。拉致することにならなくて。」
「ふふ。まぁ今のあなたが、どこまでこの国の人間なのかはわかりませんけどね!」
「大丈夫です、私はアメリカに生きています。」
「……ま、これ以上は詮索しないわぁ。」

 セオはかくっと膝を折ってオセロットの拘束から抜け出す。しゃがんだまま横に2歩移動、ハンズアップしながら立ち上がった。オセロットは不服そうな表情、信じてもらえていないと思っているのだろう。しかし彼もその若さで手練れのスパイ、こうなるのもわかっていたはず。

「それでもセオさんが大好きです。」
「ありがとう、わたしも好きになれると思うよ、オセロットのこと。」
「ほんとうですか!」
「ええ、本当本当。それじゃあまたね。」
「えっ……?」

 捨てられた子犬のような目をしないでほしい。母性がくすぐられる。

「あーうん……じゃあ今度ここであったらご飯でも食べに行こう。」
「やった!!毎日通います!」
「それならすぐにでも会えそうね、じゃ。」
「俺ずっと待ってますから!」

 はいはいというようにひらひらと手を振り、セオは部屋を出た。正直に言ってオセロットとまた会えたのはとても嬉しい。何度もいう、彼のことは嫌いではなかった。ああここが楽園か!部屋の中からオセロットの叫び声が聞こえた、スパイが聞いてあきれる。現実だから大丈夫!セオは廊下から叫び返した。
 彼女は誰もいない廊下でスキップをした、次オセロットに会うのがとても楽しみだ。






おわり






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -