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時刻不明 逃走経路道中にて


 セオにはオセロットを湖に連れていく気はなかった。途中で振り切るか眠らせるかして、どうにかWIGに近づけないようにしなければならない。スネークにこれ以上の無理をさせたくない。幸いオセロットはセオの近く、低めの位置を飛んでいる、麻酔で狙いやすい。
 だからセオは、スッと無駄な動きもなく麻酔銃を胸元から取り出し、オセロットの額に銃口を向けた。

「なにを・・・!?」

 オセロットは自分に向けられる銃の気配を敏感に察知したが遅かった。周囲を気にせず、サプレッサーのついていない拳銃がバアンと鳴く。弾はオセロットの喉に刺さった。ぐ、と、かれは息苦しそうに唸る。

「本当に悪い。・・・オセロットには謝ってしかいないな。」

 フライングプラットフォームが傾く、操縦者の動揺に合わせてゆらゆらと揺れて、推進力を失った。セオとどんどん距離が開く。ドスン!と後方で音がした。さっと振り返る、爆発は起きていない、綺麗に落ちることができたらしい。敵とはいえども無事でいてくれと願うあたり、セオはいくらか彼に情をうつしてしまったのだろう。好きだと言われたから気になるというのもあるが、それ以前からもグロズニィグラード内で一番良くかかわっていたから。彼が居たからスパイ生活もいくらか楽しかった、というそれは、素直な言葉だ。出会いがもっと良ければ、彼を好きになっていたのかもしれない。なんて考えても、この状況ではどうにもならないが。





 開けた土地にでる、湖だ、WIGが停まっている。どっと疲れがわき出てきた気がする。セオは湖の際までバイクを近づかせ、翼に飛び乗った。機体の揺れに対してバランスをとりながら扉に辿りつく。
 バタンと扉を開けると、コックピットに座っていてこちらを振り向いたEVAと目が合った。

「EVA!」
「セオ!ああ・・・良かったわ。」

 彼女はセオに駆け寄り、その身体に異常が無いかと腕や肩を触って確認する。服はぼろぼろだし、肌自体も切り傷擦り傷だらけのはずだ。

「追いつけた、よかったよ置いて行かれなくて。」
「置いていくわけないじゃない。」
「スネークは?」
「彼は・・・。」

 EVAはその言葉の続きは言わず、窓の外を見た。セオもつられて外を見る。湖岸に白い花畑が広がっている場所があった。EVAはそこを見ているらしい。なにか深刻そうな表情をしている。きかないでおいたほうが良いようだ。だからセオは「無事で戻ってくるといいけど」とだけ言っておいた。
 ベンチに腰掛ける。どっと疲れが出て、肩が重くなった。壁に背中を任せたまま横に倒れ、ベンチに寝転がる。鉄が冷たくても起き上がる元気はなかった。

「そういえばセオ、貴女はどうしてロシアに潜入していたの?・・・訊いていいかしら。」
「もうスネークに聞いていたことかと思ったが・・・。そうだな、簡単にいえばソ連が持つ核についての調査・・・といったところかな。わたしはアメリカの核廃絶団体のスパイなんだ。」
「政府の人間じゃなかったのね?」
「ああ、民間だ。そういうEVAは?」
「女は秘密が多いほうがイイ、って言うわね。」
「・・・わたしにはしゃべらせておきながら・・・。」

 こういうタイプは喋らないと言ったら喋らないのだろうから、追及しても無駄だろう。セオはそうかそうかと納得してないように頷きながら、ベンチの上にあおむけになった。緊張状態がほどけて、一気に疲れが襲いかかってきた。





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