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[ pragmatic / elysium ] spot ... 0 9 .



時刻不明 グロズニィグラード兵器廠本棟にて


 工場内部の高くて人目につかない場所にセオは身を潜める。先ほど気絶させた兵士から奪った帽子を被れば、あとは制服は同じなので、遠目にであれば見つかっても問題ないだろうが。
 スネークから借りた双眼鏡でメタルギアの周りをくまなく見渡す。そしてスネークの進行方向に敵が見えたら、丁寧に一人ずつモシン・ナガンの麻酔弾を食らわせる。サプレッサーは付いていないが、周囲に人がいないので安心して撃てる。眠った兵士やメンテナンスクルーはスネークが手際良く隠した。

 C3爆弾はすんなりと設置された。それでセオは安心して双眼鏡から目を離す。
 ・・・それが悪かった、のだ。

 ガン!と鉄製の床が歪むような音がした。セオは慌てて双眼鏡を目にあてる。ザ・ボスがいた。彼女はスネークを組み伏せ、反撃の出来ないように抑えている。その後ろにはヴォルギンとオセロットも居る。そして、倒れている女性はタチアナ・・・いや、EVA。
 セオの背中に嫌な汗が流れた。C3のスイッチは入れられたのだが、ヴォルギン達はそのことを知らないはずだ。C3の使用を提案したEVAは意識が朦朧としている。誰も爆弾のことは知らないし言わない。セオは嫌な予感がした、スネークが取り押さえられている間に爆発が起きたらどうしようか、と。
 セオの目的であったシャゴホッドの破壊完了はもうすぐだ、しかしそれを成し遂げたスネークを放ってはおけない。自分に情報を与えてくれたEVAも。そして、このコロニーの中でセオ大佐の次に世話になっているオセロットも居る。
 どうすればいい。セオは必死に考える。
 ザ・ボスはEVAを連れて工場内から去ろうとする、EVAの始末は彼女に託されたらしい。工場内から出ようとするならセオの側を通ることになる。セオは慌てて身を隠した。
 小さく丸めた体で一生懸命考える、どうすればいい、どうすればスネークを助けて脱出できるか。相手はオセロットとヴォルギンだ、オセロットならどうにかできるが、ヴォルギンは別だ。あの男に勝てないことは重々承知である。気を引いて逃げることならできるだろうか。既に逃亡する気でいるから、正体がばれることは気にしない。母国に戻ったならば、もう2度とこの極寒の土地に足を踏み入れる予定もないので。

 セオはザ・ボスとEVAを見送ると、コンテナの上に登って身体を伏せた。モシン・ナガンを構え、ヴォルギンに照準を合わせる。腕が震えた、こんな緊張感は久しぶりだ。最後に感じたのは、ロシアに訪れて軍に入るための面接を受けた時だっただろうか。まるで走馬灯のように色んなことが頭に浮かんだ。死ぬ間際の様で縁起が悪い、頭を振って再びヴォルギンを見つめた。
 バーン!!と、大きな音を立てて発砲する。音に気づいたヴォルギンとオセロットは、音のしたセオのいる方向を向いた。その所為で狙いから少し外れた。彼らは他の兵士よりもずっと耳の良かった。

「ぐ・・・!」

 一発の効き目を頭を狙った弾は、ヴォルギンの肩に入った。軍服の下に着ているゴム製のスーツに刺さった弾は呆気なく抜き取られた、効果はなさそうだ。

「出てくるな!!!」

 スネークがセオに向かって叫ぶ。その言葉でヴォルギンはスネークに仲間がいることに気づいた。セオはコンテナに頬を押し付けるようにし、気配を消したが、ヴォルギンは見逃さない。

「アルマーズ少佐ァ!」

 彼はコンテナの上にいるセオを発見し、名を叫んだ。横にいるオセロットが驚く、彼の知るアルマーズとはセオしかいない。そして一瞬で考える、まさか、あの彼女が、スネークの手を引いていたというのか、信じられない話だ。
 セオは諦めて、コンテナの上に立ち上がった。緊張で震える身体をモシン・ナガンで支えながら、じっと3人のいる方向を見据える。

「まさか・・・あなたが裏で手を引いていたのですか!?」
「手引きをしたのは、スネークの今回のグロズニィグラード潜入の時だけだが・・・そうだな。」
「あんなにスネークを憎んでいたではありませんか!!」
「気が変わったんだ、彼とは目的が一緒だった。」
「目的・・・?」

 オセロットがどうか嘘であってくれという風に懇願するが、もうこればかりはどうにもならないことだった。今まで騙していたことは悪いことをしたと思う、しかし胸の痛む罪悪感はなかった。なにより自分が望んでやったことだからだ。

「アルマーズ少佐・・・貴様アメリカのスパイだったのだな?!」
「ええ。アメリカの、というよりは、非核NPOのスパイです。シャゴホッドなんて危ないもの、この世に存在してはいけないんですよ。」
「クズが・・・!」
「騙されてくださってありがとうございます。スネークに潜入されるようなクズ警備を作る一端を担うことができました。」
「セオに突き出す!」
「・・・わたしは休憩中ですが、今更戻る気はありませんので。」

 爆発まであと何分だろうか、そういえば脱出に一番大切な猶予の時間について訊くのを忘れていた。

「スネーク、逃げましょう。」
「・・・そうはさせん!」

 ヴォルギンが壁のスイッチを乱暴に叩く。すると、ヴォルギンとスネークのいた床がガコンと揺れ、そのスペースだけがゆっくりと下降し始めた。奈落があるとは思わなかった。身一つでは登れない深さになる。唯一上に戻るための梯子は、ヴォルギンの背中にある。彼を倒すしかないとスネークは覚悟した。

「スネーク!」
「時間はある!大丈夫だ。お前は先に逃げていろ。」
「っ、ああ!」

 床の下に姿が見えなくなったスネークがセオに逃げるよう言う。彼が言うのなら大丈夫なのだろう、セオは分かったと言って踵を返した。
 しかし、それを見ていたオセロットは許さない。彼の相棒シングルアクションアーミーが、セオの腱に目を向けた。






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