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[ pragmatic / elysium ] spot ... 0 6 .



AM10:00 グロズニィグラード収容所にて


 スネークとの再会は収容所だった。彼は上着や武器を全て奪われ、身体中から血を流した跡が乱暴に拭われただけの生々しい上半身を晒していた。ただ包帯をのせられただけのような傷口からは、いまも血が滲んでいる。
ヴォルギン大佐がスネークを捉えて拷問にかけたときいたのは深夜だった。セオはそれを聞いて顔を青くし、一晩中スネークの無事を祈った。彼女にはスネークに成し遂げて欲しいことがある、他でもない、今のスネークに頼みたいことだ、今のセオには成し遂げられないこと。

「スネーク、起きていますか?」
「・・・お前は。」

 監房の見張りをしていたジョニーに頼んで、スネークと面会をさせてもらう。面会と言ってもただ檻の向こうのスネークと顔を合わせるだけ。
 ぼろぼろのベッドに寝転んでいたスネークは、声のする方へ顔を向けた。一度顔を合わせたことのある女がいる。

「研究所で会いましたね、セオ・アルマーズです。」
「セオ・・・アルマーズ・・・あぁ、あの時の。どうしたんだ、こんなところに。俺のお世話に来てくれたのか?」
「・・・。」

 スネークはベッドから起き上がり、檻を挟んでセオと向かい合った。よく見ると確かに研究所で眠らせた女だった。昨日も通信で少し話たが、変わった、というか、おかしなやつだという印象を持った。

「一つ訊きたいんだが、なぜお前は昨日、俺に西棟へ行けと言った?」
「あなたには成し遂げて欲しいことがあるんです。」

 セオは顔は動かずにちらとジョニーの方を見た。彼は監視室にいる、あそこならここでの会話は聞こえない。

「成し遂げて欲しいこと?」
「メタルギアの破壊です、あなたの目的はそれなんでしょう?」
「どうしてだ。」
「・・・わたしはスパイです。」
「スパイ?」
「アメリカの非核NPOの諜報員をしています、片親がロシア生まれで、わたしもロシア語ができましたので。」
「ソ連での核開発の動きが見られたからこちらに来た、と言うことか。」
「ええ、第二次世界大戦後すぐに亡命という形で。」

 アメリカの非核NPO、政府に近いそんな団体があることはスネークも聞いたことがあった。まさか通信局で働く彼女がその一員だとは考えてもなかったが。
 通信関係の仕事に居れば、兵器開発の話は自然と入ってくる。アメリカで使っている暗号の解読法を手土産に亡命すれば、ソ連は簡単にセオを通信局へと入れてくれた。お蔭で母国の暗号を敵国で解読し、それを利用するという不本意な生活を強いられていたわけだが。

「ソ連でメタルギアの開発が始まりったことは、所属している団体にも伝えてありました。向こうは政府にも情報を流してくれて、そのうちアメリカ人が破壊しに行く予定だと返事がありました。」
「・・・それが俺、か。」
「ええ、顔も名前も教えられていなかったので、確かにそうとは言い切れませんが。」
「まぁ俺だろうな。それであんな協力するようなことを言ったのか。」
「そうです。それで、これからどうするんですか?」
「色々と方法はあるさ、心配しなくていい。」
「そう仰るなら・・・ん。」

 がちゃん、と、扉の開く音。見張りのジョニーが監視室から出てきた。セオの話にはさっぱり気づいていないようで、ゆっくりと歩きながら気かづいてくる。

「監視員さん。」
「話は済んだか?」
「ええ、やっぱりこの人は排水ダクトから出入りしていたようです。だから見つからなかったんだ。」
「なるほどな。」
「すいません、お邪魔しました。」

 セオは軽く頭を下げる。ジョニーは何も疑うことなく、おつかれさん、とだけ返事をした。セオはちらりとスネークの方を見る、彼は何を考えているか分からない真顔をしていた。本当は全面的に協力したいのだが、今はそれが出来ない。通信局の一員としてグロズニィグラードにいるセオは四面楚歌なのだ。下手な動きは、まだ、できない。






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