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[ pragmatic / elysium ] spot ... 0 3 .



PM1:00 グラーニニ・ゴルキー研究所中庭にて

 アメリカからの侵入者、スネークと名乗る男がグラーニニ・ゴルキー研究所に現れた次の日である。セオは上司の許可をとって研究所にやってきていた。
 昨晩は研究所内はひどく荒れたのだろうが、今は閑散としていた。セオはここを警備している兵士一人一人に、昨晩の様子を事細かに訊いて回っていた。現場検証、である。他の施設の警備をより強化できるように指示をだすために、当時の様子を知っておく必要があるのだ。
 使われのた麻酔銃の弾や催涙爆弾など。人を殺す気は無いことが窺われる。刃物を突きつけられたらという証言もあるが、それは脅しだけに使っただけだという。

「警備を強化するなら、排水ダクトの入り口と床下につながる扉か。向こうに殺す気が無いなら突撃を指示しても大丈夫だな。ちょっとやそっとの爆発には耐えうるらしいしグレネードをふやして・・・・・・いかん、これは部署が違う。より的確な指示を出せるようにはと・・・。」

 中庭から食糧庫へ移動する。食糧庫は真っ黒焦げで食べられる物など一つも残っていないようだ。2階の一番すみの部屋だから、兵士にとって死角なのだろう、だから簡単に爆撃されてしまったのだ。

「・・・敵が見えたら食糧庫の安全も確保させるようにするか。」

 段々考えを深めていくと、戦略まで練っている自分がいる。これは別の部署の仕事、あくまでセオはより良い指示の与え方を見いだすまでだ。しかしこれは戦略と兵士の動きは切っても切れない関係、一緒に考えないわけにはいかない。ただ、モスクワにいたときの上司に、作戦を練るのは我々の仕事でないと諫められたことがある。セオはため息をついた。

「動くな。」

 その時、後ろから誰かに囁かれた。首に冷たい金属の感覚、これは身に覚えがある、拳銃を突きつけられている。下手な動きはできないため、セオは大人しく両手を頭の上にのせて俯いた。

「ここで何をしている。」
「現場検証。」
「GRUの兵士か。」
「わたしはGRUでも通信局だ、兵士とは、違う。」
「無線機をよこせ。」

 セオはそっと左手を頭から離し、左の胸元にくっつけてある無線機を外した。後ろにいる男がそれを取り上げる。この男は誰なのだろうか。GRUの人間で無いことは確かだ、科学者とも違う。

「スネーク。」
「・・・・・・誰のことだ?」

 一か八かでその名を呟いてみる。と、上手く引っかかってくれたようだ。”スネーク”をの意味を知らないのならば普通は『どこの国の言葉だ』か、『”蛇”がどうした』と言うはずではなかろうか。それを『誰』という、これが意味するところは、つまり彼が。
 セオは腰に差していた刀を抜き取り、みねを後ろの男に向けて薙ぐように振った。首から銃の感触が消えて、男が後退したことが分かる。セオは振りかえり、男の姿をその目でとらえようとした。ヒゲをはやした男がこちらに銃口を向けている。灰色のバンダナに、ナイフと銃を同時に持った不思議な構え、間違いないこの男がスネークだ。

「スネークですね、あなたが。」
「立派なサーベルだな、いや、それはカタナか?」
「特製の刀なんだ、立派でしょう。」

 刀を振り回し、ヒュンヒュンと音をたてて空を切って見せる。スネークが銃口を下げた、足元に威嚇射撃をするつもりだろう。サプレッサーがついた銃だ、ためらいはなく見える。しかしセオも黙っていない。

シュン!カキン!!

 発砲された瞬間、セオの腕がにわかに動いた。セオの刀が、弾を真っ二つに割った・・・いや、切り裂いたのだ。二つに分かれた弾丸はキンと音をたててアスファルトの上に落ちた。
 どういうことだ・・・とでも言いたそうなスネークの顔。まさか弾を斬られるとは思わなかったのだろう。セオはふふんと鼻を鳴らして、刀をくるくる回してみせた。

「どういう隠し芸だ?」
「斬ってみせただけです。」
「まさか!銃弾を斬るなんて。」

 セオはスネークに飛びかかった。決して彼を組み敷こうとしているのではない、平均的な体型のセオが筋骨隆々なスネークに勝てるわけがない。せめて無線機を取り返すことができれば、そうすれば応援を呼べる。
 まるで野球バットを振るように刀を両手で持ち、刀の腹をスネークの頬めがけて勢いよく振る。しかしスネークは前に倒れ込むように移動し、刀を持つセオの手首をつかみ、普段曲げない方に捻りあげた。セオは痛みに耐えかねて悲鳴を上げた。そのままスネークはセオの腕を後ろで拘束し、彼女の喉にナイフを突き立てた。
 セオは息が出来なくなった。ちょっとでも動いたら無傷では済まなくなりそうだ。

「ゼロ少佐、こいつは何者だ?」
『グロズニィグラードの通信局副部長のセオ・アルマーズ少佐だ。』
「ほう、通信局か。」
「誰と話を・・・。」
『・・・おかしいな、なぜモスクワ勤務だった彼女がグロズニィグラードのにいるんだ?』
「あらかた諜報活動かなんかだろう。」
「・・・・・・異動です。」
「だそうだ。」
『ふむ。』

 隙がない。通信中にもかかわらずスネークはセオをつかむ腕を緩めない、逃げる隙がみつからないが、相手はプロなのだ、仕方がない。

「スネーク!あなたはなぜ研究所に戻って来たんですか!」
「大佐、また連絡する。」
『ああ。くれぐれも今後の活動に支障が出ないようにな。』

 プツン、無線が切れる音。

「離してくれませんか。」
「それは出来ないな。」

 スネークが左手に構える銃が、セオの脇腹に向けられる。

「せめて俺が逃げてから起きてくれ。」

 プシュン!サイレンサーを通して撃たれた、針のような弾がセオの脇腹に刺さる。その瞬間、直ぐに襲いかかる眠気――







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