trance | ナノ



Blooming Feeling ... 03


 1stステージは短距離だった、20分もしないで決着はついた。セオは21位で到着。かなりいいだろう、参加者は千単位でいるから。
 フーフーと息の荒いラームを引っ張り、馬水桶に寄せてやる。彼はごくごくを長い喉を鳴らしながら水を飲んだ。これからラームにはもっと無理をしてもらうことになる。最高に気をつかってあげないと。セオは馬に乗る技術は月並み以上になれたが、野営術はさっぱりだ。自分で精いっぱいにならないようにしなければ。

「そこ良いかい。」
「……あ、失礼。」

 後ろから男の人に声をかけられる。場所を取り過ぎていたか、申し訳ないと思いセオはラームにすり寄って場所を開ける。その隣に馬が並んだ。白い毛並みの美しい馬だった。騎手の方は、自分に声をかけたのはどんな人だろう、そう思ってセオは目線をあげて――

「ディオ・ブランドー……!」

 白い毛の馬の首の下から、しゃがんでいる男の姿を捉える。自然と口に名前が出た。生まれて20年、一度も出会ったことのない人。その顔も、姿も、声も、今までに一度も、紙面以外では見たことのない人。しかしセオはこの人物をよく知っている。さらさらの金髪に、人を射ぬく鋭い視線。すらっとした背筋、筋肉のついた凛々しい姿。

「いかにもオレはDioだが。」
「あ……そうだ……ディエゴ、選手……。」

 セオは彼をずっと探していた。セオは彼……ディエゴ・ブランドーの目をじっと見つめ、そして、心の底からわき上がる喜びを笑顔に変えた。彼だ、間違いない、魂が記憶している、彼は間違いない、セオがずっと探していた人で間違いない。

「どうしたんだ?そんなに笑って。」
「……ディエゴ・ブランドー!わたしは貴方に会いたかった!ずっと!ずっと探していた!ああ……ディエゴ・ブランドー、貴方なんですね、本物なんですね……。」
「本物?なんだ、おかしな奴だな、何をそんなに感激しているんだ?」

 白い馬の首の下を通り、バッとすり寄ってディエゴの手を取る。彼は慌てて立ちあがった。馬の方も驚いていた。それでもディエゴは有名人らしく、ファンにアタックされるのは慣れたものだというふうに、微笑みは無くさない。

「変なことを訊きますが、ディエゴ・ブランドー、貴方はわたしに会ったことはありますか?」
「本当に変なことを訊くな……悪いがオレには覚えはない。あんたにはあるのか?」

 キョトンとしているディエゴ。突拍子もない質問に、素直にハテナを浮かべている。当たり前の反応でおかしくは無い。期待はずれの反応でも、セオはまだ喜びを表情全面に押し出している。

「いいえ、わたしも『貴方には』会ったことがありません。ごめんなさい、急に変なことを。」
「いや……いいんだが……誰かと勘違いしていないか?」
「勘違いなんてそんな!わたしは会いたかったんです、ディエゴ・ブランドー!貴方に!」
「……そういうあんたの名前は?」
「セオ・フロレアールです、はじめまして!」
「ああはじめまして……。」

 ディエゴは自らセオの手をとり、ちょっとだけ上下に振った。社交辞令ですと言わんばかりの挨拶だ。ディエゴは挨拶の握手を済ませると、水分をとり終えた白い馬――シルバーバレットの手綱を引き、それじゃあとだけ言って去って行った。おかしな奴だという印象をそのまま保たれただろう。それでもセオは構わない。今日はちょっとやりすぎたかもしれないが。これからまたゆっくり近づいていけばいい。レースはまだ始まったばかりなのだから。
 自分から離れて行くディエゴを見て、セオは、それでも、満足そうに笑う。






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