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Noble Mind pierces through the world -DEA- ... 15


 早朝のローマ・フィウミチーノ空港、である。
 クリスマスでも飛行機を飛ばしてくれることに感謝し、セオはフライトを待つ。ガラス張りの窓、飛行機と、荷物を運ぶトラックが動いているのが見える。
 楽しい思い出は無いが、ジョルノやミスタのお蔭で美味しい物を食べることができた。また今度、次は暖かい時に期待ものだ。ホテルに置いてあった観光ガイドブックには、夏の空の下に美しい風景が広がっている写真が何枚も載っていた。いくら地中海性気候といえども冬は寒い。
 ニューヨーク行きの便が、ガラス越しにセオの隣に並んだ。

「セオ!」

 人の少ない空港内に、自分を呼ぶ男の声が響いた。

「・・・ジョルノ?」

 金髪を揺らしながら駆けてくるのはジョルノだった。何故彼がここにいるのか、まさか見送りだろうか、ここで会うとは思わなかったので素直に驚いた。今日帰るという話はしていないから、自分以外に用事があったのか。見送ってくれたエヴァンと別れてから、あとは1人でぼんやりする予定だったのに。

「どうしたんですか?」
「どうしたんですか?ですって!?ぼくは貴方にどうしてと問いたいですよ、どうして今日帰ると一言も連絡をくれなかったんです!?」

 怒っている表情は初めて見たので、恐いというよりはこういう顔もするのかという印象をもつセオ。直接そう言ったらもっと怒られそうだ。ジョルノは何も言わずに帰ろうとしているのを怒っている、意外だった。

「言う必要はないかなと思って・・・。」

 セオの返事に、ジョルノは、はあ、と、声に出したため息を吐いた。あからさまにセオを責めている態度である。彼は大聖堂でもそうしたように、セオの肩をそっと下方向に押して座らせた。彼もその隣に座る。

「ビジネスライクな関係だと思っていましたから。」
「ビジネスライクだなんて冷たいですね・・・。ぼくは仲良くなりたいと思っていたのに。」
「ごめんなさい、そんなこと思っていませんでした。」

 本心そのままを口に出してしまった、自分でも冷たい返事をしているなぁとセオは感じた。ジョルノはまたため息を吐く。

「・・・クリスマスには帰りたいと言っていたのに、昨日のあれ以来何も連絡がなかったので、もしかしてと思ったら・・・これですよ。」
「よく居場所が判りましたね。」
「ええ、少し。」
「こわい事を。」

 どんな方法を取ったのか、気になるが訊かないでおこう。
 ジョルノは不織布の底が広い袋をセオに差し出した。セオはそれを素直に受け取り、中を覗いた。チョコレートの様な茶色の大きな箱が入っている。辺には金色の縁取りがされていて、高級な雰囲気が漂ってくる。箱は赤いリボンでくるまれている。

「これは?」
「この辺りで有名なケーキ屋のクリスマスケーキです。ぼくにとひとつプレゼントしてくれたのですが、折角ですし、セオ、あなたにとおもって。」
「え、いいんですか。・・・わたし、お礼に何も出来ませんけれど。」
「見返りを求めているわけではありませんよ。でも、お礼になんて言って束縛したくありませんが、これからも仲良くしてくれませんか?」

 セオにとってジョルノとミスタは、本当に、ただ利用し合うだけの関係でしかなかった。そう思っていたのが申し訳なくなったが、ジョルノから仲良くしたいと言ってくれて嬉しい。

「喜んで。」

 そうセオが返事をすると、ジョルノは出会ってから1番の笑顔を見せてくれた。
 空港内に放送がかかる。ニューヨーク行きの飛行機に搭乗する時間がやってきた。

「じゃあ、行きます。」
「次は観光に来てください。どこでも案内しますよ。」
「ぜひお願いします。」

 ケーキの箱を持っていない手を差し出し、ジョルノの手を取った。軽く手を上下に振ると、彼も応えてくれた。
 急に帰るのが惜しくなる。しかしセオはまたイタリアに来たいと思ったし、実際に来る気でいる。今日これが最後ではない。また会える日を楽しみにして、今は別れを告げよう。






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