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Noble Mind pierces through the world -DEA- ... 14
ブルネッティへの罪滅ぼし、と銘打っていても、結局は全て自分のため。セオは自分の出生に後ろ暗い所なんてないと信じてはいるが、心の奥底では、自分は生まれてはいけなかった存在なのだと確信もしている。悪の塊みたいな父親、その血が続いているのは、誰からも良くないと思われて当然なのだと思う。空条承太郎と対面している時、特に思う。彼はセオを、彼自身の罪滅ぼしのために傍に置いてもいいと思っているだけで、承太郎はセオの母親に対する罪悪感が無ければさっさとセオなんて放りだしていただろう。
だからセオは、DIOのしでかしたことの尻拭いに奔走するのだ。
「セオ!大丈夫か?無事に帰ってきてくれてよかった・・・ああその子がイレーネかい?もう、パッショーネと一緒にジェノヴァに行くって連絡が来た時には心臓が止まるかと思ったよ、色んな意味で。」
病院の例の会議室、である。夜中、病院全体が寝静まったところに戻ってきた。真っ先に飛びついて来たのは他でもないエヴァンだった。
「ごめんなさい、可否も言わせず行ってきて。でも、ほら、イレーネは帰ってきましたよ。」
知らない人の前にずいとイレーネを差し出すのは気がひけたので、ちらっと自分の後ろに隠れているイレーネを見る。このセオという人は大丈夫だと判断したのか、イレーネは大人しくセオの後ろにくっついていた。
イレーネの手を引き、ブルネッティが寝ているであろうパーテーションの内側に入る。ブルネッティは仰向け、眠っているようだ、目を完全に閉じていて、肺のあたりが僅かに上下している。
「パパ!」
しかしイレーネは父親に飛びついた。今までの静かな印象からは想像できない大声だった。ブルネッティは驚いて飛び起き、そして自分を抱きしめている愛娘に気づくと、わあと笑顔になった。やつれた顔に生気がみなぎった。しかし手足の自由が枷で奪われているため、彼には娘を抱きしめ返すことが出来ない。
「ああ・・・イレーネ・・・無事で・・・良かった・・・!」
「パパ・・・!」
イレーネの方もずっと大人しかったのが嘘のように元気になった、満面の笑み、嬉しそうに上がっている口角が可愛らしい。自由の利かない父親に全身を使って抱きついている。ブルネッティはせめてと娘の頬に自分の頬を擦り付けた。そして彼はイレーネの肩越しにセオが立っているのに気付き、感動で泣きそうになっていたがまた笑顔になる。
「ジョースターさん・・・貴女がイレーネを・・・本当に・・・何とお礼を言えばいいのか・・・。」
「いえ、そんな、いいんです。わたしが貴方のためにしたかっただけですから。」
「どうして、こんな私のために。」
「気にしないでください。」
ブルネッティが今DIOの事をどう思っているか分からない。当時の様な忠誠心はなさそうで、かといって恨んでいるようには見えない。しかし自分をこんな目に遭わせた元凶だ、良く思っていないだろう。色んな危機は回避したいし、言う必要もないかとセオは思う。
セオはイレーネ救出までのいきさつを全てブルネッティに説明した。パッショーネのジョルノに協力してもらったこと、カルドーネが犯人であったこと、イレーネがどういう状態で見つかったか、など。ブルネッティは真剣に話を聞きながら、間で何度も礼の言葉を述べた。イレーネは父親に会えて完全に安心しきったらしく、真っ直ぐセオを見詰める余裕ができていた。ブルネッティのベッドに腰掛け、まるで学校で先生の話を聞くかのように真面目な顔をしている。
「セオさん、助けてくれて、ありがとうございます。」
彼女からも丁寧なお礼。父親に促されたのではなく、自らすすんで頭を下げた。同年代の子供らに比べてよくできた子だと思う。
2人から感謝の言葉を貰えてセオは満足だ。頑張った甲斐があった。この親子が2人揃ってクリスマスが迎えられることに喜びを感じた。
ふ、と、ブルネッティの顔に、別の人の顔が重なった。金色の髪をした美丈夫の陰・・・DIO、である。とはいっても、あくまで写真でしか見たことのないセオが想像したDIOで。彼がもし真っ当な人間で今を生きてくれていたなら・・・。明日は1日、自分や母親と一緒に過ごしてくれたのだろうか。考えても虚しいことだが、羨ましいな、なんて、思ってしまう。家に帰ればジョセフ達がいる、それでも、本当の両親への憧れは、セオの心の中でくすぶっている。
「明日の朝一番でアメリカに帰ります。」
全ての用事を終えたので、結局観光はできなかったが、ニューヨークに帰ろう。ブルネッティの今後やイレーネの診察に関しては、セオが口を出せることはないのでエヴァンに投げる。
「そうかい、イレーネちゃんのことといい、本当にありがとうね。」
「どういたしまして。」
「お給料は後で口座に振り込んでおくから。」
エヴァンはセオの手を取り、深々と頭を下げた。
「・・・それにしても、まさかパッショーネと協力をするとは思わなかったな。」
彼は面白そうにけらけら笑う。
ジーノはパッショーネを信用していないらしい。ギャングによくない思い出があると言っていた、とエヴァンが言う。ミスタが、ジーノは俺達に冷たい、と言っていたのはなるほどギャング自体を良く思っていないからだったか。セオにしてみるとパッショーネに悪い印象は持てなかったが、ジーノにはジーノの色々があるのだ、パッショーネを称賛する言葉は必要ない。
「たまたま目的が同じだっただけです。」
「他の部署は協力し合うこともたまーにあるようなんだけどなぁ。」
どちらも大きな組織だし、内部にお互いを良く思わない人がいるのもあり得ないことではない。今後ぶつかることがないといいなあ、と、セオは願うのみである。