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Noble Mind pierces through the world -DEA- ... 04


 イタリアはローマ。ローマ・フィウミチーノ空港、である。イタリア国内で最も大きいこの空港は、クリスマスを家族で過ごそうと遠方への旅に飛行機を使おうとする人々や、帰省してきた人々でいっぱいだった。ほぼ半日のフライトを終えて到着したのは夜8時。すっかりくたくたになったセオは、無事自分の大きな旅行鞄を受け取って、タクシー乗り場前のベンチに腰掛けた。
 日本を出発したのも夜だったので飛行機の中ではぐっすり夢の中だったのだが、到着したここも夜、とは、もう時差ぼけがしそうな気分だった。

 ホテルや研究所までは、SPWのローマ支部の人が案内してくれることになっている。タクシー乗り場で待ち合わせ、と言われたのでおとなしく待つ。と、そこに、いかにも研究をしますと言ったような白衣を着た男性がやってきた。彼は片手に1枚の写真を持っているようで、その中身とセオを交互に見ながら近づいてくる。

「セオ・ジョースターさんかい?」
「はい、セオ・瀬尾・ジョースターです。」
「ああ良かった、間違えなかった。はじめまして、SPW財団のエヴァンジェリスタ・アネーリオです。」

 エヴァンジェリスタ・アネーリオと名乗った男は、SPWの会員証を顔の横に並べてセオに見せた。間違いない、承太郎も持っている会員証だ。エヴァンジェリスタはヨーロッパ人らしい白く透き通った肌に、くすんだ葉っぱのような、鳶色のような、緑っぽいブロンドの短髪をした軽快そうな男だった。背はすらっと高い。セオの目測で30歳前後か。彼は右手を差し出してきたので、セオはその手を取って上下に振る。

「長旅お疲れさまでした、今日は来てくれて本当にありがとう。僕の外科手術でもどうにもならないってきいていたから、もどかしくてたまらなかったよ。」
「お医者さんなんですか?」
「そうだよ。普段は支部内で外科に居るんだ。今回の、例の男が運ばれて来てからはそっちの方につきっきりなんだけど。ま、難しい話はご飯食べながらにする?ご飯食べながら難しい話なんてしたくないんだけどさ。」

 けらけらと笑うエヴァンジェリスタは、夜であることも気にせず明るい。人当たりが良くて、そんなところにセオは癒された。日本を立つ時に無愛想が服を着て煙草を吸っているような男といたので、その男とのコントラストが良い。

「さ、ご飯食べよう。君を迎えにくるっていう任務があったから夕飯はまだなんだ。簡単にパスタでいいかな。ピッツァリア・バールに行こう、美味しいところを知っているんだ。」
「ピッツァリア・バール?」
「ピッツァとパスタが食べられるんだ!お酒も飲める!ね、行こう、僕昼の休憩をいつもより短くして楽しみにしていたんだ。」
「あっはい・・・。」

 よく喋る、お国柄か底抜けに明るい。裏表のないようなそんなところが良いとも思うが、滞在中は彼に振り回されそうだ。予想できる。




 ここだよ、と連れて来られたのは、大通りから幾つか外れた人通りの少ない通りである。狭い通りでもぽつんぽつんと店があり、通りは暗いが店は明るい。既にアルコールで出来上がった客が何人かいて、エヴァンジェリスタはそんな人々の間を抜けた店の一番奥に腰を下ろした。2人がけの小さなテーブル、店自体が狭いので窮屈にも感じる。

「エヴァン、今日は仕事の話か。」
「そうだよ、だから悪いけど、今日は給仕以外では声をかけないでね。ごめん。」

 くたびれたエプロンをかけ、バンダナで白髪を隠した、店主らしい男がエヴァンジェリスタに声をかけた。メニューの表をぽんとテーブルに起き、彼は飲み物の注文を先に取る。エヴァンジェリスタはビールを、セオは疲れた体にアルコールは良くないだろうと思ってアイスコーヒーにした。

「このお店は仕事の話をする時にもよく来るんだ。周りはただの一般市民、ちょっと難しい話をしていると絡んでこないからちょうどいい。」
「エヴァンジェリスタさんはお医者さん以外に何か特別な能力はあるんですか?」
「スタンドのことかい?それならないよ、ただの医者さ。超常現象やらなんやら、いろんなことに興味を持ったからここに入ったってだけで。」
「へー。」
「今回もその1つってことで。肉の芽の話は僕が入団した当初も話題になっていたけど、実物を見たのは初めてなんだ、気持ち悪かった。」
「その、肉の芽が暴走された男っていうのはどんな感じでした?」
「んー気持ち悪かったよ!額に芽の突起が出ていて、そこから触覚が身体中に伸びているんだ。皮膚のしたをツタが這っているような感じでさ。肌の色も良くないし。明日見るから覚悟しておいてね。」
「は、はい・・・。」

 ご飯前にする話では無かった気がする。出された麺がその男に這うツタに見えなくもない。しかし美味しそうなカルボナーラだ、セオはいただきますと日本風に手を合わせてフォークを握った。美味しい、盛り付けは店主の性格を表したような雑さだが、味は絶品である。とろっとした卵がたまらない。
 セオが満足そうににやにやして食指を進めるのをみて、エヴァンジェリスタも安心して自分の皿の中身をかっこんだ。周りががやがやとうるさい分、作法やらを気にする必要もなくて良かった。

「1週間くらい滞在する予定なんだっけか。一応ホテルは7日間とっているけど、それ以上必要な時はちゃんと延長できるから。ああ、僕夜は自分の家に帰るよ。」
「エヴァンジェリスタさんのお家は近いんですか?」
「ホテルと支部の間くらいにあるよ。あとそのエヴァンジェリスタさんっていうの長くて嫌だろ?皆エヴァンって呼ぶからそう呼んでよ。」
「じゃあ、エヴァンさん。」
「これから宜しくねえ。」
「よろしくお願いします。」

 口元にトマトソースをつけながら笑うエヴァンジェリスタ、改めエヴァン。イタリアに来て初めてお世話になるのが彼で良かった、と、セオは改めて思った。






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