trance | ナノ



... 1 0 . 5 ... / / ジョースター御一行


 エジプトのとあるホテルのレストラン、である。海底でのハイプリエステス戦での疲れが残っているためさっさと就寝したいが、現在のDIOの動向を知っておきたいジョセフ・ジョースターは、店に入る前にインスタントカメラを購入していた。
 グシャリ、3万円のインスタントカメラが真っ二つに分かれる。音に驚いた周りの客達が彼らを見たが、大男5人に睨まれてしまえば、誰もが知らないふりをしてそっぽを向くしか出来なかった。ジョセフはカメラから吐き出された写真を手に取り、じっと現像を待った。
 ぼんやりと人物の姿が現れる。

「この人物は・・・?」

 横に立つ男、モハメド・アヴドゥルが写真を覗き込む。そこに映っていたのは、今までのように影を背負った男ではなかった。長い髪を風になびかせ、高い所に立つ女性だった。背景には濃紺の空、下にはカイロと思われる明るい街並み。夜だというのに昼のように明るい街を、横顔の女性は見おろしていた。タワーの様なものの天辺なのだろうか、彼女は片手を鉄塔に置いて身体を支え、もう一方の手は誰かとつないでいた。

「DIOでは無いようですね。」
「こんなカワイコちゃんがDIOに見えるってのかよ。」
「館で見たことのない方ですが・・・ポルナレフは見たことがありますか?」
「ねえなあ。新入りか?」

 花京院典明とジャン=ピエール・ポルナレフも写真を見る。彼らは以前DIOに洗脳されていたことがある。館の内部をいくらか歩きまわり、他のスタンド使いに会ったこともあるが、この写真に映る女性の事は全く見たことがなかった。

「わしはこの女性をどこかで見たことがある・・・気がするんじゃがのう。」

 横から空条承太郎が写真を取りあげた。彼はスタンド≪スター・プラチナ≫を出し、くまなく写真を見まわす。空に浮かぶ星や街に並ぶ建物の形、つながれた手の持ち主、風になびく髪やスカート、絹製のシャツ、そして、赤い瞳。

「・・・この女、目が赤いな。」

 承太郎はそこに一番注目をした。指差す先、横顔なので片方の目しか映っていないが、その瞳は赤かった。赤い目はアルビノ特有の虹彩の色だ。この女性は頭髪も肌の色もアルビノのそれではない、しかし、目だけは写真の中で群を抜いて浮くほど奇妙に赤い色をしていた。アルビノでないならば、この瞳が赤い理由は。

「赤い色・・・吸血鬼の特徴じゃ。その昔、わしがは吸血鬼になった人物を見たことがあるが・・・、人間の時とは目の色が変わっておった。赤い瞳じゃった。」
「ということは、この女性は吸血鬼・・・ということですね?」
「だと考えるのが妥当じゃろう。わしはDIOの姿を探ろうとして≪ハーミット・パープル≫を使った、この女性は奴と関係あるとみて間違いないのう。そうなれば吸血鬼になっている可能性はある。」

 口は閉じられているため、牙があるかは分からない。しかしジョセフには分かる、この女性は吸血鬼で間違いない。彼の心がそうだと断定していた。

「微笑む女と手をつないでデートか、ずいぶん穏やかなモンじゃねーか。あの悪党にもヒトらしい一面がありますってか。」

 ポルナレフが毒づく。こっちは絶えなくやってくるスタンド使いの刺客に手一杯だというのに、その悪の親玉が楽しそうなのはムッと来るらしい。そして彼だけでなく他のメンバーも良くは思っていないだろう。

「――思い出したぞ、この女性・・・わしは見たことがある。エリナおばあちゃんの持っていた写真じゃ。この女性は・・・。」

 かっ、と、ジョセフの目が見開かれる。すっかり思い出した。自分はこの女性の姿を見たことがある。遠い昔、彼が少年だった頃、祖母であるエリナ・ジョースターの部屋に飾ってあった写真で、だ。

「じじい、知っているのか。」

 ジョセフが見たことのある白黒の古い写真は、エリナが20になる前の頃、彼女自身は立ち会っていないが、ジョナサン・ジョースターが家族達と撮っていた写真だと教えられた。祖父ジョナサンと、その父ジョージ・ジョースター、そして養子であったディオ・ブランドー。さらに屋敷の執事長とメイド長、料理人が揃って映っていた写真。そして屋敷に住む者ではないが、ジョースター家と親交の深かった父と娘の親子も映っていた。エリナはその娘の方を『セオ・フロレアール』だと教えてくれた。幼いころからジョナサンと遊びまわっていた、幼馴染のセオ・フロレアール。彼女はいじめられていた自分を2度も助けてくれたとエリナは言っていた。だからジョースター家の血縁でない彼女でも、指で示して教えてくれたのだ。

「セオ・・・フロレアール。そうじゃ、セオ、と、エリナおばあちゃんが教えてくれたことがある。我が祖父ジョナサン・ジョースターの親友で、その時代高価で珍しかった写真に一緒に映ることを許された人物・・・。」
「ご先祖様と仲の良かったセオ・フロレアールとか言う奴が、なんでDIOと居るんだ。」
「ジョナサン・ジョースターと仲が良かったということは、養子であるDIOともそれなりに顔を合わせることはあったのじゃろう。」
「なるほど・・・そこでロマンスが生まれた、と、そう考えられますね。」

 花京院は納得する。DIOにとって女とは自身の餌でしかない。そんな女を、いや、女性に限らず他人を、こうやってエスコートするなんていうことは、その人がDIOにとって特別な存在であるのに間違いないだろう。

「100年も前に撮った写真に映っていたってことは、この女はもう死んでるはずだな。なのにこの若さで居るのは吸血鬼で間違いねえ。」
「過去に死んだ人物を、わざわざ墓かどこかから掘り起こして吸血鬼に変えたのだろう。そこまで執着するなら、よほど大事なんでしょうね。」

 ポルナレフとアヴドゥルが腕をこまねいた。今までの印象からは全く想像できないDIO像が生まれた。そんな人間的な一面を見せられたとはいえども、奴をぶっ飛ばすには変わりないが。

「吸血鬼は一人ではない、ということじゃな。スタンド使いかどうかは分からんが、注意するに越したことは無かろう。」

 カイロは近い。また一人警戒すべきヒトがいることに気付いた一行は、より一層気を引き締めた。






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