trance | ナノ



... 0 8 ...


 ぐったり、と、セオは肩を落とす。客間の長いテーブルには彼女とディオだけがいて、ランプの灯りが1つ光っていた。

「人殺しなんて。」
「そこまで気にする必要があるのか。」
「あなたとは違うから・・・。」
「吸血鬼として生き返らせたのだ、問題はなかろう。」
「殺したって言う事実は残っているの。」
「今後気を付ければいい。」
「う・・・。」

 スタンド、特殊な力、選ばれた者のみに発現する能力。それが手に入れられたとしても、人を殺す力となるならば、あっても何にも使えないではないか。ヴァニラがセオのスタンドを体験した時に『あの方の役に立つかもしれない』と言っていた。ディオは世界をその手に掴もうとしている。それに加担するためには、人の命を掴む能力は重宝されるだろう。ただしかし、セオはそんなことを望んでいない。

「吸血鬼になったわりには人間的な考え方をするのだな。」
「何にも使えないなら、こんな力あってもなあ。」
「殺しに使わなければいい。アイスの時のように途中で力を抜けば殺すことはないのではないか?」
「コントロールできるの?」
「練習次第だ、スタンドは自分の精神そのものなのだから、思うように使えるようになる。上手く使う事が出来るなら、人の死因を知るのに役立つ。」
「知ってどうなるの?死因の未来予知と実行が能力なら、その運命は変えられるの?」

 自分の死因を知ったとして、それを避けて生き延びることはできるのだろうか。もし避けることが出来るのなら、それは本来のスタンド能力に反するのではないか。矛盾、パラドックスが生まれる。ならば、知ってしまった死因は避けることが出来ないのでは。

「避けられないとしても、自分の死を受け入れる『覚悟』はできる、そうだろう?」
「・・・覚悟、ディオにはできる?」
「さあな。おれに使ってみるか?」
「ううん、ディオが死ぬなんて思いたくないから。」

 はたして吸血鬼・・・不老不死になった彼に死というものが来るのかは分からない。もしそれが来るとしても、そんな未来を見たくない。『覚悟』できているならば強く立ち向かえるのだろうが、生憎セオにはそこまでの心の強さがないと、自分で分かっていた。2人に残された時間なんて、知りたくない。

「セオのスタンドにも名前を付けなくてはな。」
「名前。」
「ああ。おれのスタンドはタロットカードを由来にしている。『ザ・ワールド』だ。」
「ザ・ワールド・・・世界・・・どんな力があるの?」
「そのうち体験する時がくるさ。」

 ディオの背後に黄色い何かが見えた。人の形をした、機械の様な姿。ディオを守るようにその腕を広げ、彼の肩と首にまわしている。スタンドはスタンド使いにしか見えない、セオにもディオのスタンドが見えたということは、彼女も間違いなくスタンド使いになっている事を示していた。

「・・・よし、『アトロポス』だ。」
「『アトロポス』・・・ギリシア神話の?」
「ああ。未来を司り、運命の糸を切る者。まるでそのスタンド能力のようではないか?」

 アトロポス。ギリシアの三相一体の女神『運命の三女神』のうち3番目の女神。破壊者といわれ、2人の女神がつむいだ生命の糸を断ち切るのが役目である者。糸の形ではないが、運命・・・死因を触れた人の身体に発現させ、そのまま破壊・・・死を与えるセオのスタンド。それはまさにアトロポスの名に収まる。

「よし、決めたぞ。このディオがアトロポスと名付けよう。」

 セオの傍に、石膏人形のような女性の姿が現れた。白い、石灰のように脆そうな肌は先ほどよりもはっきりと見えている。古代ギリシアの女性のように一枚の布をはためかせていて、それはまるで本当の女神のようにも感じさせる。しかし人を模した神とはまた違う、ところどころに鉄の様な部品のある、亜人の様な姿。

「その姿を現したな、美しいスタンドじゃあないか。」
「神の名前をそのままいただくなんて。」
「おれこそ『世界』だがな。アトロポス、良い名前じゃあないか。」
「そうだね、アトロポス・・・。」

 アトロポス、破壊する女神。このスタンドがセオとディオのために悪い運命を打ち砕いてくれるといいのだが。セオは実体のない石膏の手を掴むように差し出し、するりと手同士を交差させた。






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