trance | ナノ



... 0 6 ...


 実験というからなにか恐ろしいことをさせられるのかと思ったが、連れて来られたのは寝室だった。他の場所よりもランプの灯りが強く明るい部屋には、ベッドに腰掛けて本を読んでいる女性が1人いた。褐色の肌に露出の多い踊り子の姿、セオが館に来たとき真っ先に飛んできた女性だった。彼女はディオの来室を歓迎して、本をベッドの上に落とすと、彼に抱きつきに走った。後ろにいるセオなどお構いなしである。

「DIO様!来てくださったのですね・・・寝ずに待っていた甲斐がありました!さぁ、どうぞ!」

 女性はディオが今夜こそ夜伽に来てくれたのだと喜び、先程のようにまた彼の胸板に擦り寄った。ディオはだいぶ好かれているらしい。
 まさかこんなやりとりを見せつけられるために連れてこられたわけではないのだろうが、結果としてそういう事になっているのでセオはちょっと不機嫌になった。

「いいや、お前にはもう用はない。」

 ディオは乱暴に女性を引き離し、トンと押して間を取らせた。女性はぽかんと、どういうことか分からない、という表情をする。しかし直ぐにディオの隣りに立つセオに気づき、表情を醜くゆがめた。この女に愛しのDIOを取られたと思っているのだろう。あながち間違いではない。

「・・・アンタのせいね。」
「いえ別にわたしは、」

 否定しておこうと思ったのだが、セオはディオに腕をひかれる。そしてそのまま頬にキスをされてしまった。違うと言おうとした気持ちが吸い込まれる、触れられた頬が赤くなっていってセオはうつむく。

「そうだ、このDIOには他に代えることの出来ない最愛の者がいる。だからお前にはその生き血を差し出して死んでもらうことにした。」
「ッこの女!!」

 女性がセオにがぶりよる。服の襟首を掴まれ、ぐいと上に持ち上げられた。憎しみでいっぱいになった鋭い視線を向けられる。刃物を持っていたら直ぐに刺されてしまいそうである。

「あんた後から来たくせにDIO様の寵愛を受けようっていうの!?」

 よく分からない、のだが、ディオを取られるのは気分のいいものではない。綺麗とは言えない気持ちが胸に溜まっていくのが分かる。セオは自分の襟首を掴む手を掴み返し、ぎゅっと力を入れた。普通に握り締めているだけなのに、みしみしと女性の手首の骨が悲鳴をあげているのが伝わってくる。普段、というか、生前、威嚇のために入れている位の力のつもりだったのが、吸血鬼になったからなのか力が強くなっているらしい。女性の顔が痛みで歪む。襟首を掴む手が離れた、しかしセオは離さない。

「ディオを盲信しているあなたには悪いですけれど、この人はわたしのものなので。」

 セオの腕から白い幽霊のようなものが浮き上がった。さっき見えた霞が凝縮して、より実体に近くなったようだ。その腕もセオのように女性の腕を掴む。
 ブツ、と、皮膚に穴の空く音。セオの腕に血飛沫が着いた。女性の首に穴が空いている。縦に四つならんだ穴、太い血管に突き当たったのだろう、そこからはどくどくと血が流れ出してきた。女性は目を見開き、押さえられていない方の手で首の穴を塞ごうとする。しかし血は止められない。
 セオは自分の喉の渇きを自覚した。溢れるこの赤い液体を飲みたいと思った。さっきまで残っていた僅かな道徳心の欠片は吹っ飛んだ。
 女性の膝が折れる。失血死の直前なのだろう、顔は真っ青だ。がくんと膝を着き、彼女は床に崩れ落ちた。しかしその反動でセオが手を離した途端、女性の肌の色は急激に元に戻った。流れた血はそのままだが、首の穴が塞がっている。恐怖で見開かれていたまぶたは落ち、ぜえぜえと肩で息をしている。

「・・・スタンドだな。」
「スタンド、この力が?」
「髪を砂にする能力とは違うようだが。」

 ディオはセオの腕を取り、白い幽霊の腕が見えていた部分を眺めた。今はセオの腕以外には何も見えていない。

「スタンドは1人につき1つ、スタンドは特殊な能力を一つ持つ・・・。髪を砂にすること、首に穴を開けることに何の共通点がある?」
「これがスタンド能力・・・なの?」
「そうだと答えるには些か情報が足りないな。」

 恐怖に怯えがくがくと身体を震わせる女性は、力を振り絞ってディオの足元にすがった。助けて、と、声にならずとも口が動いた。ディオは彼女と目線を合わせるようにしゃがむと、ひとつニヤリと笑って、首に指を突き刺した。そして血液を吸い取る。女性は体内の血を吸われて、カラカラのミイラになってしまった。絶命まで一瞬だった。彼女はパタンと軽い音を立てて床に崩れた。

「うう、グロテスク。」
「君にも必要な行為だが。」
「嫌だなぁ。」

 良い印象が全くない女性だったが、こうも呆気なく殺されてしまっては可哀想だと思った。そして同時に、ディオに血を持って行かれて惜しいことをした、とも。嫌だ、とは口で言っても血は欲しい。先程の衝動の所為ですっかり空腹に気づいてしまった。

「・・・待って?これ、あれ?」

 そしてもう一つ、妙なことに気づいた。ディオが血を吸った際に開けた穴、女性の首に四本の指を突き刺してできた穴、それが、セオの攻撃で出来たものと酷似しているのだ。いや、似ているのではない、大きさも位置も、さっきと完全に一緒だ。これはどういうことなのだろう。

「ディオが今開けた穴、わたしがさっきやったときと同じだね・・・?」
「・・・確かに。ということはもしかしたら、セオ、君の能力は・・・死因の未来予知、のようなものだろうか。」
「死因の未来予知・・・だからアイスさんの時とは違うことが起きたの?」
「そう考えられるだろう、まだ確証は得られんが。」

 女性を掴んでいた手のひらを見つめる。ぼや、と、セオのものではない白い手のひらがぼやけて現れた。死因の未来予知、そしてそれを発現させる能力。もしその通りだとしたならば、壮大な力を手に入れてしまった。心の奥底で何かが目醒めたまま、この身体に居座っているのだろうか。スタンド、それがなにであるのが少し理解できた。






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