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長い船旅を終えカイロの港に着き、夜になるまで船の中で一睡したのち、セオ達はディオが根城にしている館にやってきた。ジョースター邸やウインドナイツロットの館ともまた違う、土壁はぼろぼろだがアラブの文化の荘厳なつくり。石造りとはまた違う良さがあるように見える。
夜中の割りに視界がよくはっきりと見えるのは、これも夜に生きる吸血鬼になったためであろうか。
セオが3人たてになっても余裕で潜り抜けられそうな前門をくぐると、そこは暗い屋内。ディオがテレンスに一言声を掛けると、テレンスは直ぐに頭を下げ、直ぐそばにあったランプに火をつけた。ぼんやりとした少しの明かりがあれば、あとは発達した視力で奥まで見渡せる。長い廊下が続いていて、それだけでだいぶ大きな館なのだということがわかる。
「DIO様!」
その廊下の向こうから、一人の女性が走って来た。女性はアラブの踊り子の衣装をみにまとっていて、褐色の腕や腹などをしっかり露出した、かなり、セオに言わせると、破廉恥な格好をしている。淑女になるべくと100年前のイギリスで育てられたセオには、同性といえども刺激的すぎた。
ふっと視線を逸らして壁を見る。後ろにいたテレンスは、セオの頬が真っ赤になっているのを発見して口元だけで笑った。
「なんだ、騒がしいな。」
「お帰りをお待ちしておりました・・・今夜こそ、今夜こそ私めと夜伽を・・・。」
女性の頬も艶やかに赤い。目はうっとりと細められて、ディオの赤い目を見つめていた。細い腕はディオの腕を絡みとってぎゅうぎゅうと胸を押し付けんとくっついている。
セオの素直な感想としてはまず、どういうことだ、のひとつだった。説明を求めるべくテレンスの方を振り返る。彼は手のひらを見せながら胸の前で振る、私の口からはなんとも言えませんということであろうか。
「下がっていろ。」
「そんなことを仰らないてください、今夜はひとときも離れたくありません。」
「下がれと言っているんだ。」
女性を引き離そうとするディオの眼光が鋭くなる。それに怖気付いた女性は、名残惜しそうにしながらもディオから離れ、元来た廊下を戻っていった。
「嫌なものを見せたな。」
「あまり良い気持ちではないね。」
「・・・嫉妬か?」
「そう思いたいのなら思っておけばいいよ。」
もやもやと不快な気持ちになったのは確かだ。わざわざ自分をさがしだして生き返らせたのに、館に女を囲っていたなんて不愉快でしかない。ディオの様な色気にあふれた美形であれば、放っておく女性は少なくないだろうし、彼自身も生きるために血液が必要なのだ、起きうるといえば起きうる。
ディオはムッとしたセオの頬に優しく触れた。そしてゆっくり自分の方へと向けさせ、その赤い目同士の視線を合わせさせた。
「女の血液は生きるために必要だった、わかってくれるだろう?」
「分からなくはないけれど。」
「君がそんな風に嫉妬してくれるとはね、恋愛感情の一つも抱かれていないと思ったが。」
「・・・ディオに無関心ではないよ。」
「ふうん。」
ディオは嬉しそうに口角を上げた。そんな彼をみてセオは恐いなぁと一言言って笑う。好きなのかと言われると、今までが壮絶だったにも関わらずわりと好きな友人であると答えられる。恋愛感情は今のところまだないと思うが、孤独なディオを見続けていた所為か、自分が守ってあげなければという庇護欲がふつふつと湧いているのはわかる。
テレンスがランプを持って館の奥へ入って行った。ディオもそれに続いたので、セオは引き続き腑に落ちない気持ちを抱きながら彼らについて行った。