trance | ナノ



16.いなくなった人たち


 朝一番の新聞に、セオは愕然とした。酷いニュースが飛び込んだ。新聞の一面に堂々と掲載されているのは、ジョースター邸で火災が起きたという、最悪のニュースだった。
 新聞によると事件は3日前の夜。警察が調査をし、ただの火事だと確定してからの報道のため、掲載に時間がかかったらしい。セオの頭の中に沢山の事が駆け巡る。3日前の事、ジョナサンがロンドンに行くといった日の事、ディオからの告白の事―――。ジョナサンがロンドンに行った日から、セオはジョースター邸に行っていない。大学でディオにも会っていない。知らないうちに、こんな事が起きているなんて。
 新聞には誰が撮ったのか、白黒の写真でもわかる、燃え盛る炎に包まれたジョースター邸の写真。
 セオは再び思考が止まった。そして大学に行く準備をやめ、ヴァントーズに断ることもなく、家を飛び出した。ジョナサンとディオとジョージと屋敷に住む人たちと、皆が心配だった。無事に逃げられたのだろうか、生きているのだろうか、怪我はしていないだろうか。
 セオは考えながら走った。草原を抜けて、あるはずのジョースター邸を目指す。しかしいつまでたっても、あの立派な屋敷は見えなかった。屋敷のあった場所には、ただ、焼け残った崩れ残った瓦礫があるばかりであった。新聞に載っていた屋敷の跡形もない。鎮火したばかりであるような煤の匂いがしている。生々しい匂いだった。
 警官や野次馬はいなかった。誰一人として居ない屋敷跡。焼死体も見えない、ジョナサン達は助かったのだろうか。

「お嬢さん、それ以上近づくのはやめな。」

 しかし、ふと、背後から声がする。もっと近くで見ようと屋敷に脚を近づけたところで、聞き覚えのない男の声がした。セオは振り返る。荒々しい印象を持たせる長い金髪に、顔に斜めに入っている傷跡を持つ、歳上らしい男がいた。片手は怪我をしているのか、包帯でぐるぐるに巻かれている。丸みのある山高帽をくいと上げて、彼はセオを睨んだ。

「・・・どちら様ですか?」
「それはオレの台詞だぜ。ジョースターさんの家に何の用事だ。」

 ジョースターさん、というのは、ジョージかジョナサンか、はたまたディオか、誰を指しているのだろうか。誰にしても、ジョースターさんと呼ぶからには、誰かの関係者であるに違いない。セオには見たことのない人だったが。

「わたしはセオ・フロレアール。ジョナサンの幼馴染です。あなたは。」
「ジョースターさんの幼馴染?それを証明する奴はいるのか。」
「ジョナサンが証明してくれます。もう一度訊きますが、あなたは誰ですか?」
「・・・おれはロバート・O・スピードワゴン。ジョースターさん・・・ジョナサンなら今病院だ。」
「病院!?ジョナサンは無事なんですか?彼は何処かを怪我して・・・ああ!」

 病院、とは、不吉なワードだった。ただ家がなくてそこに居るだけなのかもしれないが、セオには悪い想像ばかり浮かんでしまう。ジョナサンに何かあったのか、確認しに行かなくてはならない。セオはスピードワゴンに詰め寄り、ジョナサンはどこにいるのですかと問うた。

「あ、慌てないでくれ。そんなに会いたいなら連れて行く!だからそんなに近寄るな!」
「早く連れて行ってください!!」
「連れて行く!分かった!」

 セオは早く早くと必要以上に急かしながら、スピードワゴンと共に街へ戻った。会わせてくれるということは、彼は生きているということだろう。それでも気持ちがはやる。学校や父親の事はもうさっぱり頭から消えていた。今はジョナサンの無事を確認しなければ、それ以上何も出来ないほど、セオは切羽詰まっていた。


 街で一番大きい病院。その中でも特別な看護が必要な患者がいる棟、である。スピードワゴンが奥へ奥へと進むのに連れて、セオの不安も増していった。奥へ行くという事は、それほど重傷を負っているという事だ。
 スピードワゴンが立ち止った。目の前の扉、その横に『ジョナサン・ジョースター』と書かれた札がかかっている。扉には『面会謝絶』の掛札もある。

「面会謝絶・・・。」
「ああ、全身に火傷を負っているんだ。だから医者とナースしか入れねえ。もちろんおれもだめだ、さっき追い出されたばかりだ。」
「会わせてくれるって言うから、会えるもの、かと。」
「・・・すまねえ。でもな、傷が癒えれば会えるさ。その時のために部屋を知っておくってのは大事だろう?」
「そう、ですね。ありがとうございます、スピードワゴンさん。」
「火傷は酷く意識は戻っていない、だが・・・ジョースターさんなら大丈夫だ、そうだろ。」

 扉一枚向こうにジョナサンが居る。それなのに顔を一度も見れないもどかしさが辛い。扉に錠はないので、押せば開くだろう、そしてジョナサンの顔を一目見ることができるだろう。セオは脚が動き出しそうになるのを理性で止める。会いたい、会いたいが、ジョナサンが早く元気になることが一番大切だ。
 セオはぽたぽたと涙をこぼした。一番の親友が辛い思いをしている、それがまるで自分にも伝わってきてるような、そんな感覚を覚えた。






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