番外小ネタ | ナノ






 別に、人を愛してもおかしくはないんじゃないか。
 私がバケモノを目指していた過去があれど、今はそうじゃない。バケモノは一人で生きていけると思っているけど、私は一人でなくてもいい人間なんだ。
 だから、私は、貴方を求めてもいい。


「……如月さん」
「ん? 史織、どうかしたか?」


 ソファーに腰掛けながら、新聞を読んでいた如月さんが、鋭かった瞳を輝かせて私に視線を向けた。私は髪を耳にかけながら、視線を他所へと向けてやっと言葉を紡ぐ。


「……隣、失礼していいですか?」
「……え? あ、ああ! 当たり前だろ?」


 何を言い出すのか、如月さんにとっても予想外だったらしく、それでもまたちょっとはしゃぐように新聞を閉じて、隣へ促してきた。素直に、如月さんに密着するように腰かけると、如月さんが口ごもる。


「め、珍しいな……お前がこう……引っ付こうとするなんて。何かあったか?」
「……別に、何もありません」
「……そんな可愛いことばっかしてると、食うぞ?」


 何時ものような、セクハラ発言に、私は言葉を返さない。変わりにじっと、如月さんの瞳を真っ直ぐ見つめると、如月さんが目を丸めて、息を飲み込む。


「……っ」
「…………」
「史織。それは……いいって、ことか?」


 目を細めながら、私の両肩に大きな手を置く如月さんが、確認をするために私に訊ねる。
 何時もならなし崩し。その場のノリだ。大々が如月さんの身勝手で、私は付き合わされたようなことが多い。

 でも、私だって貰うばかりじゃダメなんだ。対価を払わなきゃ、望みは得られない。
 意を決して、如月さんが私の両肩をソファーに押し倒す前に、唇に自分の唇を引っ付けた。完全に固まった如月さんから、直ぐに離れたけど。顔を見るのが恥ずかしくて如月さん自身の胸板に頭を置いてしまう。


「……くっそ。結構、くるな……」
「……如ら……す、」
「あ……?」
「私は、鈴太が、好き」


 鈴太さんの心臓の音が、当ててるおでこから伝わる。凄く大きくて、早くて、私だって彼を夢中にさせてるんだって安心できた。
 鈴太さんは何か言いたそうな、うめき声をあげていたけど、最終的には私を強く抱き締める。


「史織っ……史織っ……!!」
「……すず、た……さん?」
「ありがとう……!」


 はじめて聞いた、鈴太さんの感謝の言葉。
 何時もは、それが当然のように振る舞うのに、何で好きだというそんなことで感謝されるのか。
 欲があるのか、無いのか分からない。


「……鈴太さん。えっちしないんですか?」
「後で、な。今は……すげぇ幸せ過ぎて……胸が押し潰れそう……」
「我が侭、言っていいですか?」
「……なんだ?」
「……私、今、鈴太さんと一つになりたい……です」


 ここまで頑張ったんだ。しばらくは甘えるなんて恥ずかしくて出来ない。
 鈴太さんは、そのまま抱き締めながらソファーに私を押し倒して、両手をつき起き上がる。


「お前は、どこまで俺を虜にしたいんだろうな……」


 そこには、欲情した男の姿が、私の目に映る。
 まだまだ、足りない。私が貴方無しでは生きれないように。余裕が無くなってしまうくらいに――貴女も、私無しじゃ生きれないように、私にドキドキして余裕がなくなってしまうほどに……。

 私に、溺れて欲しい。



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