俺は、史織が欲しい。
身体も、声も、言葉も、視線も、思いも全てが自分だけのものになればと思っている。
最初は、手に入れさえすればいいと思っていたけれど、次第に史織からお返しが欲しくなった。優しさだけでなく、愛されたいって思い始めたんだ。
だけど、史織は俺を好きだなんて滅多に言わないし……。
嫉妬も、してくれない。
「告白ですか。行ってらっしゃい」
「…………」
机の中にあった手紙を広げて、面倒臭いと呟いての発言。あまりに興味無さすぎだろ。俺なら確実に相手を潰しに行く。
未だに視線を本から外そうとはしないし、あまりに腹が立ったから本を奪うと、史織はふぅとため息をつく。
「……嫌なら、行かなければいいでしょう」
「そうじゃないだろ」
「……?」
「お前は、俺が他の奴にとられるの嫌じゃないのか?」
率直に、史織に訊ねると史織は少しだけ眉を八の字にさせて困ったような表情をしたが、直ぐに無表情に戻り、視線を外しながら、呟く。
「……何処にも行かないと、確信してますから」
その信頼は嬉しい。嬉しいんだけど、だけどさ。
もどかしくて、俺ばっかで悔しくて、史織に本を叩きつけたくなるけど、傷つけたくない。
だから史織の机に強く本を叩きつけて、吐き捨てた。
「……遊んでくる」
「……え?」
「鬱憤をお前では晴らせねぇからな……」
学生でも一人くらいなら殺しても、という気持ちで史織に背を向けた瞬間、服に突っかかりがあることに気がついた。すぐに振り向くと、目を丸めた史織が、俺の服を掴み、離していた瞬間が目にはいる。
「…………」
「史織?」
「……っ」
唇を噛み締めて、下を俯く史織。表情が見たくて、顔を覗き込もうとすると、さらに顔を伏せ始める。
「史織。嫌だったのか?」
「…………」
「俺が他の奴と一緒に居るの、嫌なのか?」
「…………」
「史織。答えてくれ。……そうしたら、行かないから。史織の側に、居るから」
答えなくても、史織の仕草を見て離れがたくなっているが、そう挑発すると、小さく頷く史織。
良かった。一緒だったんだな。お前も、俺が居なくちゃダメだよな。
だけど、まだまだ足りない。
「……史織。よく出来たな」
背後から優しく抱き締めて、史織の顔に少しだけ頬擦りする。表情を見れないのは残念だけど、どうせ見せてはくれない。本当に見たければ、抱けば良い。
だけど、今は史織の心がもっと欲しいんだ。
「もっと、俺に惚れて欲しい。一秒でも離れたくないくらい、依存してくれ」
「…………」
「史織、愛してる……これからも、ずっと……俺だけのもの。俺だけの史織」
再確認だった。
一人ではないという安心感を貪るように、史織にしがみつく。そんな弱い俺の姿に、史織は小さく言葉を漏らした。
「それは、お互い様です」
それでも、愛してるなんて言ってくれない史織。
お互い、思ってても重さが全然違うな。
だけど、何時かはお前も俺と同じにしてやる。
二人だけの世界を作ろう。
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