幼稚園より前から知り合ったやつが、高校まで一緒ってパターンは意外にある。所謂、幼なじみとやつだ。だけど、皆が考えてるような甘ったるい関係でもない。何より、私はアイツが苦手なんだから。
「塩辛い。四十五点」
「……いちいち点数つけるの、止めてくれない?」
「嫌なら、俺が作ると言っているでしょう。それもこれも、優が花嫁修行をしたいとか言い出したから」
「ご飯食べながら説教は止めて」
風来灯真は、私の幼なじみであり、腐れ縁にあたる関係だ。文武両道で、超人に近い。何でも出来るし、それを鼻にかけたことはしない――とは言い難い。いかんせん、自分の理想を相手に押しつける最低な癖があるのだ。
いや、違うな。風来灯真はそんな綺麗な存在じゃない。誰よりも負けず嫌いで、自尊心があって、それでいて――誰よりも、自分に厳しいストイックなやつなんだ。私は、聞こえが良いようにアイツを「努力の天才」と例えている。
面倒臭い灯真に近寄る人間はゼロに近い。それこそ、お隣で、腐れ縁で、灯真の扱いを多少分かっている私じゃなきゃ、まともな人間は対処しにくいだろう。
「……ごちそうさまでした」
「おそまつさまです」
「優、伊織のことですが」
「お弁当でしょ、灯真とは別に作ってるから持っていってあげて」
「……ありがとうございます」
面倒臭いが、礼儀は正しい。 礼をしたあと、荷物の整理をし始めた彼から視線を外し、仕事場で待つ犬耳の少女用のオヤツを用意することにした。
「……優、貴女は何時まで風来家(俺のいえ)に、毎朝来るのです? もし、貴女に恋仲のような存在がいれば、いい年した男の家に行く姿なんて良いものではないでしょう」
「伊織くんと灯真が仲直りしたら、かな」
「ぐっ」
「家族みたいなもんに嫉妬して我儘言いまくる男の所になんて嫁に行かないよ。そんなこと心配するなら、伊織くんと仲直りしてよね。それに、灯真が夜美ちゃんと早く一緒になれば」
「うるさいな! わかっているよ!!」
ポロリと出る、懐かしい灯真の本性。何時もは偉そうで、涼しい顔してるくせに、罰が悪い時には顔を真っ赤にさせて怒鳴ってくる癖。
それも慣れっこで、肩をすくめる。
「ほら、はやく仕事行きなよ。生徒が待ってるよ」
「〜〜っ。……行ってきます」
「行ってらっしゃい」
顔色を戻し、普段通りに出勤し始める灯真を見送り、私は台所へと戻る。
夫婦みたい? 残念。私達は多分、苦手な存在だと思うよ。触れて欲しくない逆鱗みたいな?
でも何で一緒にいるかって?
家族って、そんなものでしょう?
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